飲食店開業の夢を現実に:必要な届出と手続きガイド
この記事では、飲食店開業に必要な全ての届出手続きから、成功するための実践的なポイントまで、包括的に解説します。
飲食店開業前の計画と準備
事業コンセプトの明確化
飲食店開業の第一歩は、店のコンセプトを確立することです。つまり、どんなメニューをどういったサービスで提供するかを最初に決定しなければなりません。
明確なコンセプトを持つことで、その後の様々な判断基準が定まり、一貫した店づくりが可能になります。
市場調査と立地選定
出店地や物件の選定を行う際は、家賃や保証金額などを地域相場と比較しながら、店舗規模や給排水・空調の設備などに留意して物件を探す必要があります。
開業候補地が決定したら、市場調査をし、人口、性・年齢、最寄り駅の乗降客数、人口動線などにより、その候補地がどういった特徴のある市場なのかを把握しましょう。
出店地と物件が決定したら、商圏内のニーズを想定したり競合店の調査をしたりするなど客観的な視点から判断し、最初に考えたコンセプトがビジネスとして成り立つかどうかを再度検討する必要があります。
飲食店開業に必要な届出と手続き
個人事業主か法人かの選択と届出
飲食店を開業する際、まず個人事業主として開業するか、法人を設立するかを決める必要があります。
個人で開業する場合は事業開始月から1カ月以内に「開業届」「青色申告承認申請書」「給与支払事務所等の開設届出書」などを所轄の税務署へ提出しなければなりません。
一方、法人で開業する場合は、設立後2カ月以内に「法人設立届出書」「青色申告承認申請書」「棚卸資産の評価方法の届出書」「減価償却資産の償却方法の届出書」「給与支払事務所等の開設届出書」などを所轄の税務署へ提出します。
詳細については、所轄の税務署に問い合わせるとよいでしょう。
開業届の提出方法
開業届の用紙は税務署にあります。個人課税(所得税)の担当に尋ねれば、書き方も教えてもらえますので、印章を持参して税務署で記入するのがよいでしょう。国税庁のwebサイトで用紙をダウンロードして記入し、郵送することもできます。
開業届を提出する際は、開業届の控えに税務署の受付印を押してもらいます。この開業届の控えは、補助金の申請などの場面でコピーを求められることがあるので保存しておきましょう。
郵送による提出でも、切手を貼った返信用封筒を同封すれば、控えを返送してくれる税務署もあります。返送については税務署に前もって電話で相談してください。
青色申告の申請
税務署へ開業届を提出するときに「所得税青色申告承認申請書」も一緒に提出する方も少なくありません。
青色申告承認申請書は個人事業の開業にあたって必須ではありませんが、青色申告をしたい場合には、開業から2ヶ月以内(1月1日から15日に開業した人は3月15日まで)に提出します。
保健所への営業許可申請
飲食店を開業する場合、食品衛生法に基づき保健所の「飲食店営業許可」が必要になります。
一般的な申請・許可までは図2のような書類・手順が必要となりますが、これは各都道府県の所轄となっており、細かい部分は保健所によって異なります。詳細については、所轄の保健所に問い合わせることをおすすめします。
また、深夜(午前0時から日の出前)において酒類の販売を行なう場合は、「深夜酒類提供飲食店営業」として別途、公安委員会への届出も必要になります。詳細は、最寄りの警察署保安係へ問い合わせましょう。
営業許可申請の流れ
飲食店の営業許可の申請や相談は、営業所を所管する保健所に行います。
事前相談として、施設の工事着工前に設計図等を持参の上、事前に相談することがおすすめです。
書類は施設工事完成予定日の10日くらい前に、余裕を持って申請書類を提出してください。なお、申請方法については、窓口での申請、もしくは厚生労働省の「食品衛生申請等システム」にて行うことができます。
申請手続きは営業開始日のおおよそ2週間前までに行ってください。許可申請時に施設の立入調査の日程を決めます。
調査の際は、原則、申請者が立ち会ってください。施設が図面と一致しているか、施設基準に適合しているかを確認します。施設基準に適合しない場合は許可になりませんので、不適合事項については改善し、再調査を受けてください。
施設基準適合確認後、数日で許可証を交付します。許可証は営業施設の見やすい場所に掲示してください。
営業許可申請に必要な書類
営業許可申請に必要な書類は以下の通りです:
- 食品衛生責任者の資格を証明するもの(調理師免許証、食品衛生責任者手帳など。コピー可。)
- 水質検査成績書(貯水槽使用水、井戸水等を使用する場合に必要となります。1年以内のもの。コピー可。)
- 許可申請手数料(申請手数料は業種によって異なります。飲食店営業の場合は18,300円。)
- (法人の場合)登記事項証明書(コピー可。代表者等の法人情報確認のため提出をお願いしております。)
食品衛生責任者の設置
営業施設(許可業種及び届出業種)には、施設ごとに専任の「食品衛生責任者」を設置していただく必要があります。食品衛生責任者になられた方は、衛生講習会等を定期的に受講して食品衛生に関する最新の知見の習得に努めるとともに、営業者の指示に従い、施設の衛生管理を主体的に行うことになります。
食品衛生責任者の資格要件
食品衛生責任者の資格要件は以下のとおりです:
- 食品衛生監視員または食品衛生管理者
- 調理師、製菓衛生師、栄養士、船舶料理士、と畜場法に規定する衛生管理責任者・作業衛生責任者または食鳥処理事業の規制及び食鳥検査に関する法律に規定する食鳥処理衛生管理者
- 知事が行うまたは知事が適正と認める講習会の受講者
食品衛生責任者は、調理師、製菓衛生師、栄養士等の資格を有する方がなることができます。これらの資格をお持ちでない方は、食品衛生責任者の養成講習会(有料)を受講してください。
営業者が食品衛生責任者を兼ねることもできます。
食品衛生責任者の氏名は営業施設の見やすい場所に掲示してください。
その他の必要な届出
飲食店の業態によっては、以下のような追加の届出や許可が必要になる場合があります:
- 酒類販売業免許:アルコール類を提供する場合(税務署に申請)
- 深夜営業許可:午後10時以降も営業する場合(警察署に申請)
- 音楽著作権の利用許諾:店内でBGMを流す場合(JASRAC等に申請)
- 屋外広告物許可:店舗外に看板やのぼりを設置する場合(自治体に申請)
- 産業廃棄物処理委託契約:事業系ゴミの処理(許可業者と契約)
飲食店開業のための施設基準と設備
施設基準の確認
飲食店営業を始めとした32業種が許可営業に指定されています。業種・業態に合った許可を申請してください。
施設基準は、各都道府県の条例で規定されています。
新規開業に向けて内装工事等を予定している場合は、手続きをスムーズに進めるため、事前に図面等を持の上、保健所へご相談していただくことをお勧めしています。
居抜き物件(前の営業施設が残した設備や内装を引き継ぐもの)であっても、改装等により、基準に適合しなくなっている事例がありますので、注意してください。
厨房設備と店舗レイアウト
営業許可を取得するためには、衛生的な厨房設備と適切な店舗レイアウトが必要です。一般的に以下のポイントが重要です:
- 手洗い設備:専用の手洗い設備が必要です
- 食材の保管スペース:食材ごとに区分された保管設備
- 調理設備:適切な加熱調理機器
- 洗浄設備:食器等を洗浄するための設備
- 廃棄物処理設備:適切なゴミ箱と保管場所
- 換気設備:適切な換気システム
- 防虫・防鼠対策:害虫や小動物の侵入を防ぐ設備
必要な手続きを説明後、図面上で施設基準に合致しているかの審査を行います。衛生的な管理運営をするため、施設ごとに有資格者(食品衛生責任者または、許可業種によっては食品衛生管理者)をおかなければなりません。資格者がいない場合は、営業開始時までに、講習会等で資格を取得しておく必要があります。
水道水、専用水道、簡易専用水道以外の水を使用する場合、申請日より過去1年以内の、水道法の基準に適合した、水質検査成績書が必要です。未検査の場合は、早めに準備をしてください。
飲食店開業後の変更手続き
営業内容に変更があった場合
次のような変更が生じたときは、必要書類を添えて施設所在地を担当する生活衛生監視事務所に届出する必要があります。
食品衛生責任者を変更したときなどは、施設所在地を担当する生活衛生監視事務所に必要書類を提出する必要があります。
営業の地位承継・廃業の場合
許可営業者から営業許可を譲り受けた場合、許可営業者が亡くなられて親族の方が営業許可を相続した場合や、会社法に基づく社分割・合併などにより営業許可を引き継いだ場合には、その旨を必要書類を添えて店舗所在地を担当する生活衛生監視事務所に届出する必要があります。
飲食店開業成功のためのポイント
事業計画の重要性
成功する飲食店開業のためには、綿密な事業計画が欠かせません。以下の要素を含めた計画を立てましょう:
- 明確なコンセプトと差別化ポイント
- ターゲット顧客の定義
- メニュー開発と原価計算
- スタッフ採用・育成計画
- マーケティング戦略
- 収支計画と資金繰り
開業スケジュールの管理
飲食店開業は、計画から実際のオープンまで半年〜1年程度の準備期間が理想的です。以下の時間軸で準備を進めましょう:
開業6ヶ月前
- コンセプト確立と事業計画作成
- 物件探しと内装設計
- 資金調達計画
開業3ヶ月前
- 保健所への事前相談
- 内装工事の発注
- 厨房機器の選定・発注
- メニュー開発
開業1ヶ月前
- 営業許可申請
- スタッフ採用・研修
- 食材仕入れルートの確立
- 開店宣伝の開始
開業直前
- プレオープンの実施
- 最終的な店舗チェック
- オペレーションの最終確認
まとめ:飲食店開業のための届出チェックリスト
飲食店開業に必要な主な届出を整理すると以下のようになります:
-
税務署関連
- 個人事業の開業届(開業から1ヶ月以内)
- 青色申告承認申請書(希望する場合)
- 法人設立届出書(法人の場合)
-
保健所関連
- 飲食店営業許可申請(開業前に取得必須)
- 食品衛生責任者の設置
-
その他の関連機関
- 酒類販売業免許(酒類を提供する場合)
- 深夜営業許可(深夜営業する場合)
- その他の必要な許可や届出
飲食店開業は夢とビジネスが交わる素晴らしい挑戦です。しかし、必要な届出や手続きを怠ると、せっかくの努力が水の泡になりかねません。この記事を参考に、計画的に準備を進め、合法的かつスムーズな開業を実現してください。
最後に、各地域によって必要な届出や手続きの詳細が異なる場合がありますので、必ず所轄の保健所や税務署に直接確認することをお勧めします。
全体像はこちら:飲食店開業の流れ|失敗しない12のステップ