飲食店開業の基礎知識と現状
自分だけの飲食店を持つ夢。料理への情熱を形にする場所。そのビジョンを現実にするための第一歩は、開業の「流れ」を正確に理解することから始まります。
飲食店開業は決して容易ではありません。しかし、正しい知識と準備があれば、成功への道は開けます。この記事では、飲食店開業の流れを12のステップに分けて解説し、あなたの開業を成功に導くための情報をお届けします。
飲食店開業に必要な資質と心構え
飲食店経営は、単に料理が好きというだけでは乗り越えられない課題がたくさんあります。長時間労働、突発的なトラブル対応、人材管理など、様々な局面で経営者としての判断と行動が求められます。
開業前に自問すべき質問:
- 経営者としての責任を負う覚悟はあるか
- 長時間労働や不規則な生活リズムに対応できるか
- 資金面での余裕と計画性はあるか
- 人を雇い、育てるマネジメント能力はあるか
これらの問いに真摯に向き合うことで、開業への心構えができます。
飲食店開業前の準備段階(開業の6ヶ月〜1年前)
事業コンセプトの明確化と市場調査
飲食店開業の第一歩は、店のコンセプトを確立することです。どんなメニューをどういったサービスで提供するかを最初に決定します。
コンセプトを固める際には、次の3点を検討しましょう:
①どんなお客様へ - 年齢、住まい、職業、年収、グループ人数や特徴など、来店してほしい顧客像を想定します。
②何を提供するか - 焼き鳥、海鮮料理など、メインとなる料理や酒類を決めて「地元産の食材」「新鮮な魚」「手作り」など、分かりやすい特徴を出しましょう。
③どんな空間・体験を提供するか - 高級感のある落ち着いた空間か、賑やかなカジュアルな雰囲気か、どのような体験価値を提供するかを明確にします。
次に出店地や物件の選定を行います。家賃や保証金額などを地域相場と比較しながら、店舗規模や給排水・空調の設備などに留意して物件を探します。開業候補地が決定したら、市場調査をし、人口、性・年齢、最寄り駅の乗降客数、人口動線などにより、その候補地がどういった特徴のある市場なのかを把握します。
詳しくはこちら:差別化できる店舗コンセプトの作り方
事業計画書の作成方法
事業計画書は、開業の羅針盤となる重要な書類です。融資を受ける際にも必要になりますので、丁寧に作成しましょう。
事業計画書に含めるべき要素:
- 事業概要(コンセプト、提供する商品・サービス)
- 市場分析(競合状況、ターゲット顧客)
- マーケティング戦略
- 運営体制(人員計画、役割分担)
- 収支計画(開業資金、月次収支予測)
- 資金計画(調達方法、返済計画)
詳しくはこちら:事業計画書の作り方
資金計画と調達方法
開業資金は起業の際に必要となる一時的な資金です。どれくらいの資金で、どのような準備をするかは、飲食店の形を考える上で、重要なポイントとなります。
特徴のある店舗作りを考えると、開業資金に多額の内外装費が必要になる場合もあります。こだわりのメニューを提供するために厨房機器や最新設備が必要な場合は、設備費用も重要となるでしょう。
開業資金は、大きく「設備資金」と「諸費用」とに分かれます。「設備資金」とは、事業に必要な機械・備品の導入費用等。「諸費用」とは、開業までに準備する備品や事務用品の費用、開業に必要な事務手続きや登記関連費用、保証金などが該当します。
開業に必要な事務手続き、登記関連の費用や保証金などの「諸費用」は、おおよその金額が予測できるものであり、先行事例・業界事例などを参考に決めていきます。例として、保健所に申請しなければならない飲食店営業の申請手数料は、大体20,000円弱のケースが多いようです。
飲食店の開業時における資金計画では、開業時に必要な開業資金のみに注目しがちですが、実際には開業後の予想利益、その利益から支払われる借入金の返済予定までを計算する必要があります。開業時すぐに「資金繰り」に目を向けたときに、さらなる資金が必要であると気づいても間に合わないこともあるからです。
金融機関からの借入を検討する場合は、起業に必要な資金総額の3~5割程度の自己資金を確保するようにしましょう。自己資金がしっかりと準備されているということは、事業計画が練られているのと同じように、本気度が高いう印象につながります。起業するために、資金をコツコツと貯めてきた人は、借入を依頼する金融機関からも良い評価を得られるはずです。
詳しくはこちら:飲食店開業資金の計算から調達まで成功への道筋
店舗準備と法的手続き(開業の3〜6ヶ月前)
物件探しと立地選定のポイント
飲食店において立地は成功の鍵を握る重要な要素です。以下のポイントを考慮して物件を選びましょう:
- 目標とする客層の行動パターンに合った場所か
- 人通りや視認性は十分か
- 競合店の状況はどうか
- 家賃や保証金は事業計画に見合っているか
- 設備(特に給排水、ガス、電気容量)は十分か
- 搬入経路や駐車場はどうか
出店地と物件が決定したら、商圏内のニーズを想定したり競合店の調査をしたりするなど客観的な視点から判断し、最初に考えたコンセプトがビジネスとして成り立つかどうかを再度検討しましょう。
詳しくはこちら:商圏分析で失敗リスクを9割減らす方法 詳しくはこちら:理想的な物件の探し方と選定基準
必要な許認可と申請手続きの流れ
飲食店を開業する場合、食品衛生法に基づき保健所の「飲食店営業許可」が必要になります。一般的な申請・許可までは書類・手順が必要となりますが、これは各都道府県の所轄となっており、細かい部分は保健所によって異なります。詳細については、所轄の保健所に問い合わせましょう。
また、深夜(午前0時から日の出前)において酒類の販売を行なう場合は、「深夜酒類提供飲食店営業」として別途、公安委員会への届出も必要になります。詳細は、最寄りの警察署保安係へ問い合わせましょう。
新たに営業許可を受ける手続きのおよその流れは次のとおりです: 事前相談 → 電子又は窓口申請 → 審査(書類審査・実地調査) → 許可
営業許可の申請を行う場合は、必要書類と手数料が必要です。業種ごとに施設基準がありますので、不明な点等があれば事前に相談しましょう。
食品衛生法では、各店に1人「食品衛生責任者」を置くことが義務づけられています。食品衛生責任者は、調理師、栄養士、製菓衛生師のいずれかの資格が必要です。有資格者がいない場合は、所轄の保健所が実施する食品衛生責任者のための講習会を従業員のうち少なくとも1人が受講し、テストに合格しなければなりません。このテストに合格すれば、食品衛生責任者の有資格者となります。
申請手続きは営業開始日のおおよそ2週間前までに行ってください。許可申請時に施設の立入調査の日程を決めます。調査の際は、原則、申請者が立ち会ってください。施設が図面と一致しているか、施設基準に適合しているかを確認します。施設基準に適合しない場合は許可になりませんので、不適合事項については改善し、再調査を受けてください。
個人で開業する場合は事業開始月から1カ月以内に「開業届」「青色申告承認申請書」「給与支払事務所等の開設届出書」などを所轄の税務署へ提出しなければなりません。
一方、法人で開業する場合は、設立後2カ月以内に「法人設立届出書」「青色申告承認申請書」「棚卸資産の評価方法の届出書」「減価償却資産の償却方法の届出書」「給与支払事務所等の開設届出書」などを所轄の税務署へ提出します。詳細については、所轄の税務署に問い合わせましょう。
詳しくはこちら:必要な届出から成功のポイントまで 詳しくはこちら:飲食店開業に必要な資格
店舗設計と内装工事の進め方
飲食店の設計・内装は、コンセプトを視覚的に表現し、顧客体験を左右する重要な要素です。
店舗設計のポイント:
- コンセプトとの一貫性
- 動線の効率性(キッチン、ホール、トイレなど)
- 客席レイアウトの工夫(回転率とくつろぎのバランス)
- 厨房設計の効率性
- 照明・音響・温度などの環境設計
- 衛生面への配慮
着工前に平面図を保健所へ持参し、設備面でのアドバイスを受け、必要な提出書類をもらいましょう。
施設が新築であれば工事着工前、貸しテナント等であれば厨房の改修工事の前に施設平図面について保健所に相談することをお勧めします。
詳しくはこちら:内装デザインで差をつける
開業直前の準備(開業の1〜3ヶ月前)
メニュー開発と価格設定の戦略
メニュー開発は、店舗コンセプトの核となる部分です。以下のポイントを考慮しましょう:
- ターゲット顧客のニーズと嗜好に合わせる
- 差別化ポイントを明確にする
- 原価率と利益率のバランスを考える
- 調理工程の効率性と品質のバランスを取る
- 季節性や地域性を取り入れる
価格設定のポイント:
- 原価率の適正管理(食材費30~35%程度が目安)
- 競合店の価格調査
- 顧客の価格許容度の把握
- 付加価値の可視化
仕入れ先の確保と在庫管理の仕組み作り
安定した品質の商品を提供するためには、信頼できる仕入れ先の確保が不可欠です。
仕入れ先選定のポイント:
- 品質の安定性
- 価格の適正さ
- 配送の信頼性と頻度
- 支払い条件の柔軟性
- 緊急時の対応力
在庫管理の基本:
- 適正在庫量の把握
- 先入れ先出し(FIFO)の徹底
- 定期的な棚卸
- 無駄のない発注サイクルの確立
- 廃棄ロスの最小化
スタッフ採用と教育・トレーニング
良いスタッフの存在は飲食店成功の鍵です。採用と教育に十分な時間をかけましょう。
採用のポイント:
- 明確な求人条件の設定
- 複数回の面接の実施
- 実技テストの導入
- 人柄と店舗文化との相性の重視
教育・トレーニングのポイント:
- マニュアルの作成と活用
- OJT(実地訓練)の徹底
- 接客・調理技術の標準化
- 衛生管理の徹底
- 緊急時対応の訓練
プレオープンと宣伝戦略(開業直前)
プレオープンの実施方法とフィードバック活用
本格オープン前にプレオープンを実施することで、運営上の問題点を発見し、改善することができます。
プレオープンのポイント:
- 友人・知人や業界関係者を招待
- 実際のオペレーションで提供
- 率直なフィードバックを収集
- メニュー、サービス、オペレーションの最終調整
- スタッフのトレーニング機会として活用
効果的な宣伝方法とSNS活用戦略
飲食店が開店すると、その周辺の人たちはとても気になるものです。注目されているこのタイミングにうまく集客販促をすれば、効率よくお店のことを知ってもらえることになります。
集客販促を始める際に、一番初めに行うことは、顧客ターゲットの設定です。どんなお客さんをお店に呼びたいのかを明確にすることで、自然と集客販促の方法が決まっていきます。「地理的」、「人的」、「心理的など」の3面でターゲット顧客を具体化していくと明確にしやすいです。
マーケティングでお勧めなのは「やれることはすべて取り組む」という姿勢です。SNSのほか、チラシ配布、グルメサイト掲載、ホームページの構築、店舗前の看板やディスプレイの工夫などです。予算の制約はありますが、できる限りのことを行いましょう。
とくに、開業する前から、InstagramやXなどのSNSで情報発信することで、多くのファンを確保できる可能性があります。実際に、開業の2年以上前から、コツコツと料理や酒の情報発信を行って、開店時の集客に成功した店舗の例もあります。
オープン日の準備と運営計画
オープン日を成功させるためには、以下の準備が必要です:
- スタッフの役割と配置の最終確認
- 十分な食材・備品のストック
- 予約状況の管理
- 緊急時対応の準備
- オープン直前の店内清掃・セッティング
- 精算システムの最終チェック
- スタッフミーティングで士気を高める
開業後の運営管理と成長戦略
日々の運営管理とPDCAサイクル
開業後も継続的な改善が成功の鍵です。PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)を活用しましょう。
運営管理のポイント:
- 売上・原価の日次管理
- スタッフのパフォーマンス評価
- 顧客フィードバックの収集と分析
- メニューの定期的な見直し
- 衛生管理の徹底
顧客満足度向上とリピーター獲得戦略
開業直後において、重要なことはいかに優良顧客を作るかです。そのためには顧客との関係性の強化が必要となります。
リピーター獲得のポイント:
- 一貫した品質とサービスの提供
- 顧客情報の管理と活用
- 特典や会員制度の導入
- 定期的なイベントの開催
- SNSを活用した継続的な情報発信
- 顧客からのフィードバックの積極的な取り入れ
収益改善と事業拡大のタイミング
安定した経営基盤ができた後は、収益の改善や事業拡大を検討しましょう。
収益改善のポイント:
- メニューエンジニアリング(高利益商品の販促強化)
- 原価管理の徹底
- 人件費の適正化
- 固定費の見直し
- 営業時間・営業日の最適化
事業拡大の判断基準:
- 安定した利益の確保(最低1年以上)
- 運営システムの標準化
- 人材の育成状況
- 市場の成長性
- 資金調達の見通し
飲食店開業で失敗しないためのチェックリスト
よくある失敗事例と対策
失敗から学ぶことも重要です。以下によくある失敗事例と対策をまとめました。
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資金不足
- 対策:十分な運転資金を確保し、最低6ヶ月は赤字でも耐えられる準備を
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コンセプト不明確
- 対策:ターゲットとコンセプトを明確にし、一貫性を保つ
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立地選定ミス
- 対策:徹底した市場調査と複数の物件比較
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原価管理の甘さ
- 対策:詳細な原価計算と定期的な見直し
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人材確保・育成の遅れ
- 対策:早期からの採用活動と教育システムの構築
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マーケティング不足
- 対策:開業前から継続的な集客戦略の実施
詳しくはこちら:飲食店開業のリスクと成功への道筋
成功している飲食店から学ぶポイント
成功店に共通する要素:
- 明確なコンセプトと差別化ポイント
- 立地と客層のマッチング
- 徹底した品質管理
- 顧客体験への細部へのこだわり
- 効率的なオペレーションシステム
- 従業員教育の充実
- 継続的な改善への姿勢
まとめ:飲食店開業の流れと成功への道
飲食店開業は、綿密な計画と準備、そして継続的な努力が必要なチャレンジです。この記事で紹介した12のステップは、それぞれが開業成功のための重要な要素です。
特に重要なのは、以下の5つのポイントです:
- 明確なコンセプトと差別化戦略の構築
- 徹底した市場調査と立地選定
- 現実的な資金計画と余裕を持った資金準備
- 必要な許認可の早期取得
- 開業前からの効果的な集客戦略の実施
開業後も終わりなき改善の旅が続きます。顧客の声に耳を傾け、品質とサービスの向上に努め、時代の変化に柔軟に対応していくことが、長く愛される飲食店になるための鍵となるでしょう。
最後に、飲食店開業は大変なことも多いですが、お客様に喜んでいただける料理とサービスを提供できる喜びは何物にも代えがたいものです。この記事が、あなたの飲食店開業の夢への一助となれば幸いです。