飲食店開業に必要な資金の全体像
「いくらあれば開業できる?」という問いの答えは、実は「それだけでは不十分」です。本当に知るべきは、資金の「金額」ではなく「使い方」の戦略です。ここでは、開業資金の基本的な考え方から具体的な調達方法まで徹底解説します。
業態別の平均開業資金相場
飲食店の開業資金は業態によって大きく異なります。以下に代表的な業態別の開業資金相場を紹介します。
小さなカフェなどの開業費用として、平均1,500万円ほどかかっているという調査結果があります。具体的には、20坪、座席数24席、家賃10万円と想定した場合の開業費用に加えて、お店が軌道に乗るまでの間の運転資金として500万円ほどを加算し、合計2,000万円ほどの資金が必要になります。
居酒屋の場合は、立地や規模によりますが、一般的に2,000万円〜3,000万円程度が必要です。高級レストランになると3,000万円〜5,000万円以上かかることも珍しくありません。
開業資金の内訳と比率の目安
開業資金は、大きく「設備資金」と「諸費用」とに分かれます。「設備資金」とは、事業に必要な機械・備品の導入費用等。「諸費用」とは、開業までに準備する備品や事務用品の費用、開業に必要な事務手続きや登記関連費用、保証金などが該当します。
開業資金の内訳比率の目安としては、以下のような割合が一般的です:
- 物件費(敷金・礼金など):20〜30%
- 内装工事費:30〜40%
- 厨房設備費:15〜25%
- 家具・備品費:5〜10%
- 開業前の運転資金(人件費・広告宣伝費など):10〜15%
- 予備費:5〜10%
飲食店開業資金の詳細な内訳と計算方法
物件取得・賃貸に関わる費用
飲食店の家賃は、売上の10%以内が理想的であると言われており、一ヶ月で30日間営業する場合、家賃の目安としては3日間の売上と同等の金額となります。また、その地域の1坪あたりの家賃の相場も確認し、相場と比べて高めに設定されている場合は、交渉してみることも検討しましょう。
物件契約時には以下の費用が必要になります:
- 敷金:家賃の3〜6ヶ月分
- 礼金:家賃の1〜2ヶ月分
- 仲介手数料:家賃の1ヶ月分+消費税
- 保証金:家賃の数ヶ月分(返還されない場合あり)
内装・設備投資の適正価格
内装費は開業資金の中でも大きな割合を占めます。厨房設備は特に高額になりがちなので、中古品の活用や居抜き物件の検討も視野に入れると良いでしょう。
主な内装・設備投資項目:
- 店舗デザイン費
- 内装工事費(壁・床・天井・照明等)
- 厨房設備(調理機器・冷蔵庫・製氷機等)
- 客席設備(テーブル・椅子・カウンター等)
- 空調設備
- トイレ設備
- 看板・サイン工事
許認可取得と事務手続きの費用
飲食店を開業する場合、食品衛生法に基づき保健所の「飲食店営業許可」が必要になります。また、深夜(午前0時から日の出前)において酒類の販売を行なう場合は、「深夜酒類提供飲食店営業」として別途、公安委員会への届出も必要です。
カフェなどの飲食店には、食品衛生責任者を各店舗に1名以上配置することが義務付けられています。資格の取得には、保健所が行っている食品衛生責任者養成講習を受講する必要があります。講習会では、衛生法規や公衆衛生学などの講習を6時間ほど受けるほか、受講料として1万円前後が必要になります。
収容人員(従業員を含む)が30人以上の場合には、防火管理者の選任が義務付けられています。防火管理者の資格には甲種と乙種の2種類があり、用途と収容人数によって取得する資格が異なります。
その他必要な手続き費用:
- 営業許可申請手数料:約2万円
- 食品衛生責任者講習料:約1万円
- 防火管理者講習料:約1万円
- 法人登記費用(法人の場合):約20〜30万円
- 酒類販売免許申請費用(酒類を提供する場合):約3万円
初期在庫と運転資金の計算
飲食店の開業時における資金計画では、開業時に必要な開業資金のみに注目しがちですが、実際には開業後の予想利益、その利益から支払われる借入金の返済予定までを計算する必要があります。開業時すぐに「資金繰り」に目を向けたときに、さらなる資金が必要であると気づいても間に合わないこともあるからです。
売上の予測は、「客単価×1日の客数×営業日数」から算出します。飲食店の開業で、漠然と目標月商を設定する方がいますが、これでは、一日当たりの来店客数や、一日の売上目標が分からないため、経営状況の把握と改善が難しくなります。売上予測は、必ず、客単価と1日の客数から、1日当たりの売上予測を求め、それを積み上げることで、ひと月当たり売上予測を算出します。
また、売上予測は、繁盛店となることを想定した目標の売上(上位)と、標準的な売上(中位)、お客様が想定通りにいらっしゃらなかった場合の売上(下位)の3段階に分けて算出します。
運転資金として準備すべき項目:
- 仕入資金(食材・飲料)
- 人件費(スタッフ給与・社会保険料等)
- 水道光熱費
- 家賃・共益費
- 通信費
- 消耗品費
- 広告宣伝費
- 予備費
一般的には、最低でも3〜6ヶ月分の運転資金を準備しておくことが推奨されています。
飲食店開業資金の調達方法を徹底比較
銀行融資を成功させるコツ
金融機関借入を利用するメリットは、他の手法と比べ、比較的利用しやすく、開業資金限定の有利な制度なども整備されている点が上げられます。また、借入の手続きを通じて、事業に対するアドバイスも受けられることがあります。
金融機関は借入以外にも、日々の決済で利用することになります。また、開業後に改めて資金繰り面で不安が生じる可能性もあります。身近な相談役として、早い段階で金融機関とコミュニケーションを取っておくべきでしょう。
ただし、借入については、当然に「審査」があります。審査においては、貸した資金がきちんと返済されるかどうかがポイントで、担保や個人保証が求められる場合もあります。また、自己資金と異なり、利息を含め毎月の返済が必要となります。
銀行融資を成功させるポイント:
- 綿密な事業計画書の作成
- 自己資金の確保(総資金の20〜30%程度)
- 安定した収入や職歴の証明
- 詳細な資金使途の明確化
- 返済計画の具体化
公的融資・補助金の種類と申請方法
日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」は、女性、若者、シニアの方や廃業歴等があり創業に再チャレンジする方、中小会計を適用する方など、幅広い方の創業を支援しています。融資限度額は7200万円(うち運転資金4800万円)、返済期間は設備資金が20年以内、運転資金が7年以内となっています。
公益財団法人東京都中小企業振興公社では、一定の要件を満たす都内で創業を予定されている方または創業して5年未満の中小企業者等の方に、従業員人件費、賃借料、広告費等、創業初期に必要な経費の一部を助成しています。令和7年度第1回より、公社の「商店街起業・承継支援事業」「若手・女性リーダー応援プログラム助成事業」を除き、他の創業関係の助成金・補助金を過去に受けたことがある場合でも、本助成金と重複する経費でなければ申請可能になりました。
主な公的支援制度:
- 日本政策金融公庫の創業融資
- 自治体の創業支援融資制度
- 創業補助金
- 小規模事業者持続化補助金
- 地域の産業支援センターの助成金
クラウドファンディングなど代替資金調達法
中小企業等が行う「購入・寄付を通じたクラウドファンディング(CF)」による資金調達を支援するため、取扱CF事業者に支払う手数料のうち、最大2/3 50万円までを助成する自治体もあります。
クラウドファンディングのメリットは、資金調達だけでなく、開業前から店舗や商品のPRができ、潜在顧客を獲得できる点にあります。リターン設計を工夫することで、開業前から売上を立てることも可能です。
その他の代替資金調達方法:
- エンジェル投資家からの出資
- ベンチャーキャピタルからの投資
- 知人・友人からの借入
- パートナーシップによる共同出資
- リースの活用
開業資金を抑える具体的な方法
居抜き物件の活用と注意点
居抜き物件とは、前の店舗の内装や設備をそのまま引き継げる物件のことで、新規出店よりも開業コストを大幅に抑えられるメリットがあります。ただし、以下の点に注意が必要です:
- 前店舗の営業状態や廃業理由の確認
- 設備の状態や衛生状態の精査
- 前店舗のイメージが残る可能性
- 自分のコンセプトとの整合性
- 隠れた修繕費用の有無
段階的な投資戦略
全ての設備を一度に揃えるのではなく、必要最低限の設備からスタートし、収益に応じて段階的に投資していく方法も効果的です。
例えば:
- 最初は少ない席数でスタート
- メニューを厳選し、食材ロスを減らす
- 必要な設備から優先的に導入し、徐々に拡充
- 成功の兆しが見えてから広告宣伝費を増やす
- 黒字化した後に店舗拡大や多店舗化を検討
共同経営やフランチャイズの選択肢
単独での開業が難しい場合は、共同経営やフランチャイズ加盟という選択肢もあります。
共同経営のメリット:
- 資金負担の分散
- リスクの分散
- 異なる専門性の融合
- 人脈の共有
フランチャイズ加盟のメリット:
- 知名度と集客力の活用
- 確立されたビジネスモデルの導入
- 本部からの経営サポート
- 開業までの期間短縮
失敗事例から学ぶ資金計画の重要ポイント
過大投資の落とし穴
過大な設備投資や高額な内装費用は、固定費の増加につながり、資金繰りを圧迫します。特に開業初期は売上が安定しないため、必要最小限の投資にとどめ、余裕を持った資金計画が重要です。
失敗例:
- 過度に豪華な内装や高級設備への投資
- 需要予測を超える大きな店舗の賃貸
- 高額な広告宣伝費の投入
- 売上予測の甘さによる過剰な人員確保
運転資金不足による破綻の実例
開業後、お店がすぐに軌道に乗るとは限りません。お客様に来ていただき、常連のお客様が付き、売り上げが安定するには、開業から1年くらいはかかるものです。この期間をどう乗り切るかが成功の鍵となります。
運転資金不足に陥る主な原因:
- 開業資金の大部分を設備投資に使い切ってしまう
- 客数や客単価の見込みが甘い
- 季節変動を考慮していない
- 宣伝広告費の効果測定ができていない
- 急な修繕費や追加設備費用の発生
成功オーナーに学ぶ賢い資金活用法
投資優先順位の決め方
限られた資金を効果的に活用するためには、投資の優先順位を明確にすることが重要です。成功オーナーは以下のような優先順位で投資を行っています:
- 衛生管理・安全設備(食の安全は譲れない)
- 顧客体験に直結する要素(料理の質、接客環境)
- 集客につながる要素(外観、看板、メニュー表示)
- 作業効率を高める設備(厨房機器、POS等)
- 快適性を高める要素(内装、BGM、空調)
収益化までの資金繰り計画
飲食店に限らず商売を始める場合の資金としては、自己資金と借入金があります。自己資金だけで開業資金が十分間に合うというケースはほとんどなく、そこで多くの場合、金融機関から資金を借り入れることになりますが、大切なことは返済計画をきちんと立てることです。
さらに、借入金には「元金と利息」があるので、利息を支払うだけでなく、元金と利息のことを考えて返済計画を立てるようにしましょう。
事業に必要な資金には、「設備資金(土地、建物、設備などの購入に充てる)」「運転資金(原材料、商品仕入れ、賃金、その他の経費に充てる)」があります。
設備投資のための資金は回収するまでにはかなりの年月を必要とするので、できるだけ自己資金で賄いたいものです。もし借入金を利用するのであれば、できるだけ返済期間が長期のものを利用しましょう。
飲食店は毎日の売上のほとんどが現金として手元に入ってくるため、一般には原材料や商品の仕入れ代金を借り入れる必要はありません。しかし、ボーナスなど一時的に多額の資金を必要とするようなときには、運転資金を短期借入するケースもあります。この短期借入は比較的容易な手続きで借りられる場合がありますが、目的用途の不明確な短期借入は行なわないことが大切です。
これから飲食店を開業する人へのアドバイス
飲食業未経験者の方は、開業を希望するお店と同業種のお店に務めて、飲食店経営に関する全般的な知識と経験を積むことが必須です。準備期間を3年~5年と定めて、開店資金や経営ノウハウ、調理技術、資格などの取得や習得に努めてください。
開業に必要な資金は、出来る限り自分の預金や退職金など、自己資金のみで準備し借入をせずに開業するのが理想的です。開業後、常連のお客様が付き、お店が軌道にのるまでには、やはり時間がかかります。
開業資金を借り入れると、お店が軌道にのる前に、借入金の返済で資金繰りが行きづまり、材料の仕入れや人件費、家賃の支払いが出来なくなる恐れが出てきます。
計画的な資金積み立ての姿勢は、金融機関などから融資を受ける際も個人の信用として金融機関の担当者へ与える印象に大きく影響してきます。
飲食店のコンセプトを固める際には、「どんなお客様へ」「何を提供するか」をしっかり検討し、お客様の真の目的を満たすことを意識して商品やサービスを組み立てることが重要です。
また、いいお店でも、お客様を集めるマーケティングを行わないと繁盛しません。「やれることはすべて取り組む」という姿勢で、SNSのほか、チラシ配布、グルメサイト掲載、ホームページの構築、店舗前の看板やディスプレイの工夫などに取り組みましょう。特に、開業する前から、InstagramやXなどのSNSで情報発信することで、多くのファンを確保できる可能性があります。
最後に、開業資金の検討は、必要な資金項目の見落としや予想外の調達額になる可能性もありますので、知り合いの同業の事業者や外部の専門家のアドバイスを受けることも検討しましょう。
飲食店開業は厳しい道のりですが、綿密な計画と準備、そして情熱があれば、必ず成功への道が開けます。この記事が皆さんの飲食店開業の一助となれば幸いです。
全体像はこちら:飲食店開業の流れ|失敗しない12のステップ