飲食店を開業する前に候補物件の通行量を調べる方法を徹底解説します。国土交通省の道路交通センサスやGoogleマップなど完全無料で使えるツールのデスクトップ調査手順から、現地カウント調査のやり方(時間帯・曜日・日数の目安)、通行量データから入店率・月商を試算する計算式と業態別の目安値まで、立地選定で失敗しないために必要な情報を網羅します。

「通行量が多い立地を選べ」とよく言われますが、「通行量」と「交通量」は異なるデータを指しており、混同したまま調査を進めると判断を誤る原因になります。まず二つの定義を整理し、この記事で扱う調査の全体像を把握しましょう。
歩行者通行量とは、特定の地点を一定時間内に通過した歩行者の人数です。「店前を何人が歩いたか」を示す数値であり、飲食店の集客ポテンシャルを直接評価するために使います。一方、車両交通量は同じ地点を通過した自動車・二輪車の台数を指し、道路の混雑状況や物流インフラの整備水準を測るために活用されます。国土交通省が公表する「道路交通センサス」(全国道路・街路交通情勢調査)は後者——つまり車両データが中心であり、近年の調査では歩行者数は原則として含まれていません。ロードサイドへの出店を検討する場合はセンサスが役立ちますが、駅前・商店街・路面店を狙うケースでは「車が何台通るか」よりも「人が何人歩くか」を調べることが本質的な課題になります。
この記事では、飲食店開業に向けた通行量調査を次の3ステップで解説します。
現地に足を運ぶ前に机上で候補を絞れると、時間と交通費を大幅に節約できます。順番どおりに進めましょう。
複数の候補物件を同時に現地調査するのは非効率です。まず無料で使えるデジタルツールを組み合わせて「有望そうな立地」と「可能性が低い立地」をスクリーニングし、実地調査の対象を絞り込みましょう。代表的な3つのツールとその使い分けを以下に整理します。
国土交通省の道路交通センサス(全国道路・街路交通情勢調査)は、全国の一般道路・高速道路を対象に原則5年ごとに実施される交通量調査です。結果が公開されている最新版は令和3年度(2021年度)調査で、結果データは国交省の公式サイトからCSV形式でダウンロードできます。また、「令和3年度 一般交通量調査結果WEBマップ(可視化ツール)」を使えばブラウザ上で地図に重ねて確認でき、特定の路線を選択すると24時間交通量・大型車混入率・ピーク時交通量などを参照できます。
活用手順の概要は次のとおりです。
活用場面:郊外のロードサイド物件、幹線道路沿いのファミリーレストランや持ち帰り専門店など、自動車来客を主な想定とする業態に特に有効です。
根本的な限界:前述のとおり車両台数のデータであり、歩行者数は含まれません。駅近・商店街・オフィス街の路面店を検討している場合は、後述の人流データサービスと組み合わせて使ってください。なお、令和7年度(2025年度)調査は2025年秋に実施済みです。結果の公開状況については国交省サイトを随時確認することをおすすめします。
Googleマップには、特定のスポットに関して「混雑する時間帯」グラフを表示する機能があります。スマートフォン・PCいずれでも、物件近くの駅出口・商業施設・公園・公共施設などのスポットページを開くと、曜日別・時間別の混雑度が棒グラフで確認できます。
活用の手順
このグラフから「週末の午後は人が多いが平日ランチは閑散としている」といった時間帯・曜日の傾向を把握できます。ランチ専門店として出店するなら平日のランチ帯の棒グラフが高いスポット付近を優先的に現地調査するべき、といった形で候補地の優先順位付けに使えます。
注意点:Googleマップの混雑グラフはあくまで相対的な指標であり、「グラフが高い=何人が歩いている」という絶対数は取得できません。また、ロケーション履歴を有効にしたユーザーの匿名集計データに基づいているため、データが不足するスポットでは表示されないことがあります。傾向の比較ツールと位置づけ、現地カウント調査で実数を確認することが必要です。
国土交通省は「全国の人流オープンデータ」を無償公開しており、1kmメッシュ単位の滞在人口推計データをG空間情報センターからダウンロードできます。携帯電話端末等の位置情報データをもとに推計されたものであり、「特定のエリアに何人が滞在していたか」を確認できます。
データの読み方:集計区分は「全日・平日・休日」×「終日・昼・深夜」の組み合わせで提供されており、曜日別や任意の時間帯別(11〜14時のみ等)の確認はできない点に注意が必要です。候補物件が含まれるメッシュの平日昼間の滞在人口と休日や深夜の滞在人口を比較し、自分の業態のターゲット時間帯に人が集まるエリアかどうかの大まかな見当をつけます。たとえば平日昼間の滞在人口が周辺メッシュと比べて高ければ、ランチ需要が見込めるオフィス集積地の可能性があります。なお、このデータの集計期間は2019年1月〜2021年12月(コロナ禍を含む)で以降更新されていないため、現在の人流をそのまま反映するものではない点を踏まえ、あくまで参考値として扱ってください。
有料サービスとの使い分け:Location AI社「人流アナリティクス®」、ソフトバンク子会社のAgoop、クロスロケーションズ「Location AI Platform」、KDDI Location Analyzer、Nightley「CITY INSIGHT」などの有料人流サービスは、更新頻度が高く、より細かい地点分解能を持ち、属性情報(性別・年代推計)も付加されています。費用はサービス・プランにより月額1万円台から数十万円まで幅がありますが、複数店舗の出店戦略を検討するチェーンや、詳細な商圏分析が必要な場合は費用対効果が合う選択肢です。一店舗目の開業調査であれば、まず無料ツールで十分に候補地を絞り込み、最終判断のみ有料サービスを検討するという進め方が現実的です。
デスクトップ調査で候補物件を2〜3件に絞ったら、次は実際に現地に立って歩行者を数えます。店前通行量調査とは、候補物件の真正面を通過する歩行者を一定時間カウントし、「この場所は1日何人に見られうるか」という集客の上限(シーリング)を数値化する作業です。デスクトップ調査では取れない「絶対数」と「客層の属性」を把握することが目的です。
現地に行く前に、「いつ・何時間・何日間調査するか」を設計しておくことで、現場での迷いをなくし、後から比較しやすいデータが揃います。
業態別の推奨調査時間帯
業態 | 重点的に調査すべき時間帯 |
|---|---|
ランチ専門店 | 11:00〜14:00(ランチピーク) |
カフェ・喫茶 | 10:00〜13:00、15:00〜18:00(アフタヌーン) |
居酒屋・バー | 17:00〜21:00(ディナー・飲み会前) |
テイクアウト専門 | 12:00〜13:30、17:30〜19:30(通勤帰り) |
各時間帯を最低1時間(できれば2時間)カウントすることを推奨します。短すぎると偶発的な増減の影響を受けやすくなります。
曜日設定:最低でも平日1日+土曜か日曜のどちらか1日の計2日間実施してください。平日と休日では人の流れが大きく異なり、片方だけでは週次の売上予測が立てられません。祝日・近隣のイベント開催日・大学入学共通テストの実施日などの特殊日は避け、通常の生活動線を反映した日を選びましょう。
天候補正:雨天時は晴天時と比べて通行量が大きく減少するため、雨の日のデータをそのまま使うと実態より低い推計になります。できれば晴天の日に再調査を行い、悪天候データは参考値として扱いましょう。
カウント対象の定義:物件前の歩道を通過する歩行者を基本とし、自転車・電動キックボードを含めるかどうかを調査前に決めておきます。業態がテイクアウト中心で自転車利用客を取り込める立地なら含めてもよいですが、着席型の飲食店なら歩行者のみをカウントする方が実態に近い数値になります。複数の候補地を比較する際は、同じ定義で揃えることが重要です。
必要な道具:スマートフォンの無料カウントアプリ(「Tally Counter」等)または手書きのカウントシートがあれば十分です。専用機材は不要で、初期費用ゼロで実施できます。
記録の単位と集計手順:15分ごとに区切って記録し、後から1時間・半日・1日の合計に集計する方法を推奨します。時間帯変動が可視化できるため、「ランチ直前の11時台に急増する」「14時以降は急減する」といったパターンの把握に役立ちます。
方向別・属性別カウントの追加:通過方向(物件に向かって右側から来るか、左側から来るか)を区別して記録すると、駅や商業施設などの集客源との関係が見えてきます。さらに、性別・年代の大まかな目測(例:20〜30代女性、50代以上男性など)を合わせてカウントすれば、自分の業態のターゲット層がどれだけこの場所を歩いているかを照合できます。
以下はカウントシートの最低限の項目構成例です。
時間帯 | 右から左(人) | 左から右(人) | 小計 | うちターゲット属性(目測) |
|---|---|---|---|---|
11:00〜11:15 | 23 | 18 | 41 | 12 |
11:15〜11:30 | 31 | 22 | 53 | 19 |
…(以下同様) |
|
|
|
|
この表を15分刻みで埋め、1時間・半日・1日の合計欄を加えると、のちの試算に使いやすいデータが完成します。
現地カウントで得た「日通行量〇〇人」という数値は、それ単体では意思決定の根拠になりません。「その通行量で目標の月商を達成できるか」という問いに答えるために、入店率×客単価×営業日数の試算フローへ接続することが重要です。
入店率(来店率)とは、店前を通過した歩行者のうち実際に入店した割合を指し、以下の式で算出します。
入店率(%)=来店客数 ÷ 店前通行量 × 100
入店率は業態・物件条件・競合環境によって大きく異なります。公的な統計があるわけではありませんが、コンサルティング実務などで用いられる経験則の一例として、以下のような目安が挙げられます(実際の数値は店舗ごとに異なります)。
テイクアウト業態の入店率が高い理由は、購買意思決定のハードルが低く、立ち寄りの心理的ハードルも小さいためです。一方、着席型の居酒屋やカフェは「目的来店」の割合が高く、通りすがりの人が入店する確率は低くなります。
入店率の数値は「ファサード(外観)の視認性」「看板の訴求力」「物件前に立ち止まりやすいスペースがあるか」「競合店の密集度」「エリアの客層と業態のマッチ度」によって大幅に変動します。上記の目安はあくまで試算の出発点として使い、最終的には実際の開業後データで検証・更新することが必要です。
順算の例(あくまで計算例として記載):
日通行量 1,000人 × 入店率 1% × 客単価 800円 × 25営業日 = 月商 200,000円
この例では月商20万円にしかなりません。客単価1,200円のカフェで入店率1.5%を見込むなら、同じ計算式で月商450,000円になります。このように数値を変えながら「この物件は事業計画を成り立たせるか」を確認できます。
逆算アプローチ(必要通行量の算出):
目標月商と業態の設定値から、「必要な日通行量」を逆算する方法も有効です。
必要な日通行量 = 目標月商 ÷ 客単価 ÷ 入店率(小数)÷ 月間営業日数
たとえば目標月商60万円・客単価1,000円・入店率1%・25営業日であれば、「60万 ÷ 1,000 ÷ 0.01 ÷ 25 = 日2,400人」が必要な通行量の目安になります。現地カウントの結果がこの数値を下回っていれば、「入店率を上げる施策(看板・ファサード改善)」または「客単価を上げるメニュー設計」で補完できるか検討することになります。
業態別の最低通行量の目安例(統計的な裏付けのある数値ではなく、実務上の経験則としての参考値です):
なお、通行量の基準を満たしていても、物件の視認角度・動線の流れ・近隣の競合数・テナントの間口幅によって実際の入店率は大きく変わります。売上計画・事業計画書の作成に落とし込む際には、これらの要因も加味して複数のシナリオを用意しておくことをおすすめします。
「歩行者通行量」は人の歩行数、「車両交通量」は自動車・二輪車の台数を指します。飲食店の集客ポテンシャルを判断するには、店前を歩く人数を示す歩行者通行量を使います。国土交通省の道路交通センサスは主に車両データのため、駅前・商店街の路面店調査には人流データサービスや現地カウントを組み合わせることが必要です。
候補物件の前を通過する歩行者を一定時間カウントし、「1日に何人がこの場所を通るか」という集客ポテンシャルの上限を数値化する調査です。複数物件の比較・業態の適合性判断・売上試算の根拠づくりの3つが主な目的です。開業前の意思決定精度を高めるために行います。
最低限の目安は「平日1日+休日1日」の計2日間、業態に合ったピーク時間帯(ランチ専門なら11〜14時など)に各1〜2時間カウントする設計です。晴天日に実施することを基本とし、雨天時は通行量が大きく減少するため、雨天データは参考値として扱います。詳細な調査設計の考え方は「現地カウント調査のやり方」セクションで解説しています。
デスクトップ調査では①道路交通センサス(車両データ)、②Googleマップの「混雑する時間帯」、③国交省の全国の人流オープンデータの3つをすべて無料で使えます。絶対数を把握するには現地カウント調査が必要ですが、こちらも無料のスマホアプリと手書きシートで実施できます。
国土交通省が原則5年ごとに実施する全国道路・街路交通情勢調査(一般交通量調査)で、全国の道路における車両台数・速度・車種構成などのデータを公開しています。結果が公開されている最新版は令和3年度(2021年度)調査です。ロードサイドや幹線道路沿いの出店を検討する際に、その道路の通過交通量の参考データとして活用できます。ただし歩行者数は含まれていないため、路面店・商店街立地の調査には人流データと組み合わせる必要があります。
入店率は通行量のうち実際に来店した割合を指し、経験則として業態により0.2〜5%程度の幅があるとされます。カフェなら日通行量1,500〜2,000人以上、テイクアウト専門なら日500人前後から事業が成立しうるといった実務上の目安があります。目標月商・客単価・入店率の目安値から「必要な日通行量」を逆算するアプローチが、物件の合否判断に有効です。詳細な計算フローは「入店率・月商を試算する」セクションをご覧ください。
計算式は「来店客数 ÷ 店前通行量 × 100(%)」です。業態別の目安(経験則に基づく参考値)は以下のとおりです。
ファサードの視認性や競合環境によって実数は大きく変動するため、目安値はあくまで試算の出発点として扱ってください。
業態を問わない全飲食店の平均としては、実務上0.5〜1.5%程度が目安として語られることが多いですが、公的な統計に基づく数値ではありません。立地条件・店頭の視認性・業態特性・競合密度によって数倍の差が生まれるため、業態別の目安値をベースに試算することが実務上は有用です。開業後は実績入店率を計測し、目安値との差を施策改善に活かす習慣をつけると精度が上がります。
通行量の絶対数不足に加えて、よく見られる共通点は以下の4点です。①ファサードが角地や路地に隠れていて通行者の視線が届かない(視認性の低さ)、②幹線道路や駅出口から外れた「動線の死角」に位置している、③半径100m以内に競合が密集しており差別化要因が乏しい、④エリアの主要客層(例:ファミリー多数の住宅街)と業態(例:一人飲み居酒屋)がミスマッチ。通行量調査だけでは見えにくいこれらのリスクを、現地調査と属性カウントで合わせて確認することが重要です。
Googleマップで候補地周辺を「カフェ」「定食」「ラーメン」などのカテゴリで検索して店舗数と口コミ数を確認する方法が最も手軽です。食べログ・ぐるなびなどの飲食ポータルサイトのエリア絞り込み検索や、総務省・経済産業省の「経済センサス」で業種別の事業所数を把握することも可能です(かつての商業統計調査は平成26年調査を最後に廃止されています)。通行量カウントと同じ日に周辺の競合店の外観・混雑状況・価格帯を観察することで、調査を並行して効率的に進められます。
本記事の金額・制度情報は執筆時点の目安です。実際の費用は業態・規模・地域・時期により異なり、補助金・融資・許認可・税の最新かつ正確な情報・要件は各公式(日本政策金融公庫・中小企業庁・各自治体・税務署等)で必ずご確認ください。
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