飲食店開業における内装の重要性
飲食店の内装は単なる「見た目」ではなく、お店の「顔」であり「第一印象」です。内装は集客力やブランドイメージに直接影響し、お客様があなたの店に足を踏み入れるかどうかを左右する重要な要素です。同時に、開業費用の中で最も大きな割合を占める投資でもあります。
成功する飲食店と失敗する飲食店の違いは、実は内装費用の金額ではなく「使い方」にあります。適切な内装投資が集客力を何倍にも高める一方で、見当違いの豪華な内装が開業後すぐの閉店を招くケースも少なくありません。
では、具体的にどれくらいの費用をかけ、どのように内装を計画すれば良いのでしょうか?
内装が集客に与える影響
内装は顧客心理に大きく影響します。店内に入りやすい雰囲気づくりは、新規顧客の獲得に直結します。
店舗設計において大切なことは、お客様の視点から入りやすく、歩きやすく、見やすく、分かりやすいレイアウトを作ることです。飲食店の場合は特に、くつろぎやすさが求められます。
ファサード(店舗外装正面)の開放感や、エントランス(入口周り)の広さなどが、お店の入りやすさに大きく影響します。道路面との段差解消、店名や店頭メニューパネルが読みやすい明るい照明なども、入りやすさの条件となります。
顧客心理と内装デザインの関係
飲食店のレイアウトを考える際、最も重要なポイントの一つが客席構成です。一般的にお客様は、窓際、壁際、両端、奥から順に席をとっていく傾向があります。
外から見える席にお客様を優先的にご案内することで、店の賑わいを演出でき、同時にお客様のくつろぎやすさも得られるのです。
この顧客心理を理解し、内装デザインに反映させることで、集客力を高め、客単価アップや回転率向上にもつながります。
飲食店内装費用の相場と内訳
飲食店の内装費用は、店舗の規模、場所、コンセプト、グレードによって大きく異なります。具体的な相場を把握することで、適切な予算計画が立てられます。
内装費用の基本構成要素
飲食店の内装費用は大きく分けて以下の項目で構成されます:
- 内装工事費(床、壁、天井、照明など)
- 電気設備工事費
- 給排水・衛生設備工事費
- 空調設備工事費
- 厨房設備費
- 家具・備品費(テーブル、椅子、カウンターなど)
- サイン・看板費
開業するために必要な費用としては、物件取得費(前家賃、敷金もしくは保証金、礼金など)、内外装工事費(電気工事、看板設置、排水工事など)、業務用設備費(冷蔵庫、調理台、シンクなど)、備品・消耗品費(調理道具、食器、テーブル、椅子、決済端末など)、広告宣伝費、システム導入費などがあります。
坪単価で見る内装費用の目安
飲食店の内装費用は「坪単価」で考えるとわかりやすくなります。業態や店舗グレードによって大きく異なりますが、一般的な相場は以下の通りです:
- 居酒屋・定食屋(スタンダード):20〜40万円/坪
- カフェ・喫茶店(中級):30〜60万円/坪
- 本格レストラン(高級):50〜100万円/坪以上
実際の調査では、小さなカフェなどの開業費用として平均1,500万円ほどかかっているという結果が公表されています。例えば、20坪、座席数24席、家賃10万円と想定した場合の開業費用に加えて、お店が軌道に乗るまでの運転資金として500万円ほどを加算し、合計2,000万円ほどの資金が必要になるケースもあります。
工事別の費用内訳
内装費用を工事別に見ると、費用の割合は概ね以下のようになります:
- 内装基本工事(壁・床・天井):全体の30〜40%
- 電気・照明工事:15〜20%
- 給排水・衛生設備工事:10〜15%
- 空調設備工事:10〜15%
- 厨房設備:20〜30%
特に厨房設備は業態によって大きく異なり、本格的な調理を行うレストランでは全体の30%以上を占めることもあります。
業態別の内装費用比較
飲食店の業態によって必要な設備や内装の質が異なるため、費用にも差が出ます。それぞれの特徴と相場を見ていきましょう。
カフェ・喫茶店の内装費用
カフェは比較的シンプルな厨房設備で済むことが多く、内装費用は他の業態に比べて抑えられる傾向があります。
法改正により、「飲食店営業許可」と「喫茶店営業許可」が「飲食店営業許可」に統合され、喫茶店でもカフェと同様の営業許可申請が必要となりました。そのため、喫茶店でもフードの提供ができるようになり、カフェと喫茶店のはっきりとした区別はなくなっています。
カフェの内装費用相場(20坪の店舗の場合)
- 内装工事:500〜800万円
- 厨房設備:200〜300万円
- 家具・備品:200〜300万円
- 合計:900〜1,400万円程度
居酒屋・バーの内装費用
居酒屋やバーは、飲み物中心の提供となることが多いですが、厨房設備も一定程度必要です。
居酒屋の開業には、物件取得費、内外装工事費、業務用設備費、備品・消耗品費、広告宣伝費、システム導入費などがかかります。また、フランチャイズの場合には、別途加盟金や保証金、研修費が必要になります。
居酒屋開業に際しては、保健所の「飲食店営業許可」が必要です。申請には「食品衛生責任者」や、収容人数30名以上の飲食店を開業する場合「防火管理者」の設置が必要です。
居酒屋の内装費用相場(20坪の店舗の場合)
- 内装工事:400〜700万円
- 厨房設備:200〜400万円
- 家具・備品:150〜250万円
- 合計:750〜1,350万円程度
本格レストランの内装費用
本格的なレストランは、高品質な内装材料や専門的な厨房設備が必要となるため、費用が高くなる傾向があります。
レストランの内装費用相場(20坪の店舗の場合)
- 内装工事:700〜1,200万円
- 厨房設備:400〜700万円
- 家具・備品:300〜500万円
- 合計:1,400〜2,400万円程度
テイクアウト専門店の内装費用
テイクアウト専門の店舗は客席スペースが少ないため、内装費用を抑えられる場合が多いです。
自宅でテイクアウトのお店をやりたい場合も飲食店営業許可が必要です。多くの場合、自宅等の改装が必要になります。
テイクアウト専門店の内装費用相場(10坪の店舗の場合)
- 内装工事:200〜400万円
- 厨房設備:200〜400万円
- 家具・備品:50〜100万円
- 合計:450〜900万円程度
内装費用を賢く抑えるための7つの方法
内装費用を抑えるためには、単に「安く」するのではなく、「効率的」に投資することが大切です。
優先順位をつけた予算配分
全ての場所に均等に予算をかけるのではなく、お客様の目に触れる機会が多い場所に重点的に予算を配分しましょう。例えば、エントランスや客席エリアは妥協せず、バックヤードは機能性重視で費用を抑えるといった工夫ができます。
既存設備の活用方法
内装工事費はお金をかけようと思えばいくらでもかけることができます。複数の会社から見積もりを取り、費用に関する条件をきちんと決めておくことが重要です。
物件の既存設備を最大限活用することで、大幅なコスト削減が可能です。特に給排水設備や空調設備などの大きな工事が必要な設備は、可能な限り既存のものを活用しましょう。
DIYで挑戦できる内装ポイント
全てをプロに依頼するのではなく、一部をDIYで行うことでコストを削減できます。例えば:
- 壁のペイント
- 簡単な棚の設置
- テーブルや椅子のリメイク
- 装飾品の製作
ただし、電気工事や給排水工事など専門的な工事は安全面からもプロに依頼しましょう。
中古設備の賢い選び方
厨房機器や家具などは中古品を活用することで、新品の半額以下で購入できることもあります。中古品を選ぶ際のポイントは:
- 信頼できる専門業者から購入する
- 実物を確認し、動作テストを行う
- 保証の有無を確認する
- クリーニングやメンテナンスの費用も考慮する
段階的な内装投資の考え方
開業時にすべてを完璧にする必要はありません。基本的な機能を満たした上で、売上に応じて段階的に設備を充実させていく方法も検討しましょう。
企業の利益は、基本的に「売上-コスト(経費)」です。利益を増やすには、売上を増やすか、またはコストを減らすしかありません。コスト削減の結果、社員のモチベーションが低下したり、品質・サービスが低下したりしたら、本末転倒です。コスト削減にあたっては、収益を上げるために必要不可欠なコストと見直し可能なコストを見極める目を持つことが重要です。
内装業者の選び方と見積もりのポイント
内装費用を適正化するには、信頼できる業者選びが欠かせません。
信頼できる内装業者の見分け方
内装業者を選ぶ際は、インターネットで検索して自分のイメージと近い写真をアップしているような施工会社に依頼する、専門誌で探す、知人に聞いてみるなどの方法があります。もし、イメージ通りの店舗やオフィスが実在するなら、その店舗に出向き、店のオーナーにどこの施工会社に依頼したのかを聞いてみるのもよいでしょう。
信頼できる内装業者を選ぶポイント:
- 飲食店の内装実績が豊富か
- ポートフォリオやサンプル事例が充実しているか
- 保健所の基準や消防法に関する知識があるか
- 打ち合わせに丁寧に対応してくれるか
- アフターフォロー体制が整っているか
見積もり比較のチェックポイント
内装工事費はお金をかけようと思えばいくらでもかけることができます。複数の会社から見積もりを取り、費用に関する条件をきちんと決めておきましょう。
複数の設計・施工会社に見積書と施工方法についての提案書を出してもらってそのなかから選定するコンペ方式と、特定の会社に任せる指名方式があります。どちらにもメリット・デメリットがあるので、予算など自分の条件と照らし合わせて考えましょう。
見積書を比較する際のチェックポイント:
- 項目の明細が詳細に記載されているか
- 使用する素材や設備の詳細が明記されているか
- 追加費用が発生する可能性がある項目が明示されているか
- 工事期間が明記されているか
- 保証内容が明記されているか
- 支払い条件は適切か
契約前に確認すべき重要事項
内装業者と契約する前に必ず確認すべき事項:
- 設計図面や3Dパースなどのビジュアルイメージ
- 詳細な見積書と追加費用の可能性
- 工事スケジュールと完成予定日
- 支払い条件と支払いスケジュール
- アフターサービスや保証内容
- キャンセルポリシー
- 施工管理体制
内装工事のスケジュールと進め方
内装工事は計画的に進めることで、無駄なコストを削減し、予定通りのオープンを実現できます。
内装工事の基本的な流れ
- 設計・プランニング(1〜2ヶ月)
- 見積もり・業者選定(2〜4週間)
- 行政手続き・許認可申請(1〜2ヶ月)
- 解体工事(既存店舗の場合)(1〜2週間)
- 基礎工事・給排水・電気工事(2〜3週間)
- 内装仕上げ工事(2〜3週間)
- 厨房設備・家具設置(1〜2週間)
- 最終検査・調整(3〜5日)
- 清掃・開業準備(3〜5日)
レイアウトの詳細を決め、許認可事業の場合は当該の役所と折衝し、設備機器の計画、設計などを行います。これらの要素を付加して実際の店を作るための施工計画や実施設計図面が作成されます。
工程別の所要期間の目安
飲食店の内装工事全体では、通常2〜3ヶ月程度が必要です。ただし、店舗の規模や工事内容、許認可の取得状況によって変動します。
自分の会社や店の事業内容や商品構成の特性をどう表現していくかを練り、設計・施工会社と共有しましょう。店舗の場合、自分がイメージしている写真や色見本などを用意しておくと設計・施工会社に伝わりやすくなります。構想に基づいた基本的なレイアウトを決定する際は、出入り口の位置や動線、バックヤードはどれぐらい確保するかなどを考えます。飲食店であれば、厨房の面積や位置を決定し、平面図にまとめます。後悔しないためにもここで一番時間を割く大事なところです。
工事中によくあるトラブルと対処法
内装工事中に発生しやすいトラブルとその対処法:
- 予算オーバー:予備費として10〜15%の余裕を持たせておく
- 工期の遅れ:余裕を持ったスケジュールを立て、定期的に進捗確認を行う
- 仕様の行き違い:細かい部分までしっかり打ち合わせし、書面で残す
- 隠れた欠陥の発見:特に既存物件の場合は事前調査を徹底する
- 近隣トラブル:事前に挨拶回りをし、工事の告知を徹底する
内装投資の回収計画を立てる
内装費用は単なる出費ではなく、将来の収益を生み出すための投資と考えるべきです。
投資回収期間の計算方法
投資回収期間を計算する基本式: 投資回収期間 = 内装投資額 ÷ 月間営業利益
飲食店の開業時における資金計画では、開業時に必要な開業資金のみに注目しがちですが、実際には開業後の予想利益、その利益から支払われる借入金の返済予定までを計算する必要があります。
損益計画表を作成する意義は、借入金返済に充てることができる予測利益を算出することにあります。予測利益は、売上高予測から予想される費用を引いて求められるので、まず売上高予測を予想客単価、予想客数をもとに算出することから始めます。
例えば、内装投資額が1,200万円で、月間営業利益が50万円の場合: 1,200万円 ÷ 50万円 = 24ヶ月(2年)で回収となります。
一般的には、内装投資の理想的な回収期間は2〜3年とされています。
売上予測と内装費用の関係
売上の予測は、「客単価×1日の客数×営業日数」から算出します。飲食店の開業で、漠然と目標月商を設定する方がいますが、これでは、一日当たりの来店客数や、一日の売上目標が分からないため、経営状況の把握と改善が難しくなります。
売上予測は、繁盛店となることを想定した目標の売上(上位)と、標準的な売上(中位)、お客様が想定通りにいらっしゃらなかった場合の売上(下位)の3段階に分けて算出すると良いでしょう。
内装投資と売上の関係性を考える際のポイント:
- 内装の質と客単価の相関関係
- 店舗デザインと集客力の関係
- 厨房設備の効率性と回転率の関係
- 座席数と最大売上の関係
長期的視点での内装投資の考え方
開業後、お店がすぐに軌道に乗るとは限りません。お客様に来ていただき、常連のお客様が付き、売り上げが安定するには、開業から1年くらいはかかるものです。
内装投資を長期的視点で考えるポイント:
- 耐久性を重視:安価な材料で初期費用を抑えるより、長持ちする材料を選ぶことで、長期的にはコスト削減になることも多い
- メンテナンス性を考慮:清掃やメンテナンスのしやすさを考慮した設計で、長期的な維持費を抑える
- 将来の拡張性:将来的な業態変更や拡張の可能性を考慮した設計
- トレンドと普遍性のバランス:流行り廃りの激しいデザインより、普遍的なデザインをベースにアクセントでトレンドを取り入れる
成功事例と失敗事例から学ぶポイント
実際の飲食店開業における内装投資の成功例と失敗例から学ぶことで、より効果的な内装計画が立てられます。
少ない予算で成功した飲食店の共通点
少ない予算で成功している飲食店には、以下のような共通点があります:
- 明確なコンセプト:予算は限られていても、一貫したコンセプトを持ち、それを内装に反映
- セルフビルド:オーナー自身がDIYで内装の一部を手掛け、個性を出しながらコスト削減
- 既存設備の有効活用:物件選びの段階で既存設備が活用できる店舗を選定
- 集中投資:全体に均等に予算をかけるのではなく、お客様の印象に残る部分に集中投資
- ストーリー性:安くても「ストーリー」のある内装で差別化(例:地元の古材を活用など)
「飲食店はコンセプトが重要」といいますが、その前に「経営理念」を明確にしておくことが大切です。経営理念はそれほど難しく考える必要はなく、例えば「お客様に暖かい料理を提供し、楽しい時間を過ごしていただきます」というシンプルなものでも構いません。
内装投資の失敗から学ぶ教訓
内装投資の失敗事例から学べる教訓:
- 過剰投資:立地やターゲット客層に見合わない豪華すぎる内装は、投資回収を困難にする
- 機能性の軽視:見た目重視で機能性を軽視すると、オペレーション効率が下がり長期的なコスト増に
- トレンドへの過度な依存:一過性のトレンドに過度に依存すると、すぐに古臭く感じられる可能性も
- 明確なコンセプト不足:内装に一貫性がなく、店の個性が伝わらない
- 工期管理の甘さ:工期の延長は開業の遅れを招き、初期費用(家賃等)の無駄遣いにつながる
まとめ:飲食店内装費用を最適化するためのチェックリスト
飲食店の内装費用を最適化し、効果的な内装投資を行うためのチェックリストです:
予算計画
- 総投資額のうち内装に割ける予算を明確にする
- 業態に応じた適切な坪単価の目安を把握する
- 予備費として10〜15%の余裕を持たせる
- 投資回収計画を立てる
内装業者選び
- 複数の業者から見積もりを取る
- 飲食店の施工実績が豊富な業者を選ぶ
- 契約内容・支払条件を明確にする
- アフターフォローの充実度を確認する
内装設計
- 店舗コンセプトを明確にする
- 客席レイアウトを最適化する
- 動線計画を効率的に設計する
- 厨房設計を機能的にする
- 照明計画を効果的に行う
コスト最適化
- 既存設備を最大限活用する
- DIYできる部分を検討する
- 中古設備の活用可能性を検討する
- 段階的投資計画を立てる
- 重点投資すべき場所と節約できる場所を見極める
開業資金の検討は、必要な資金項目の見落としや予想外の調達額になる可能性もありますので、知り合いの同業の事業者や外部の専門家のアドバイスを受けることも検討しましょう。
飲食店の内装は、単なるコストではなく「投資」です。計画的に予算を配分し、効果的な内装を実現することで、集客力アップと長期的な経営安定につながります。現在の資金状況を正確に把握し、将来の売上予測に基づいた無理のない計画を立てることが、内装投資成功の鍵となるでしょう。
全体像はこちら:内装デザインで差をつける