飲食店の物件選びで多い失敗が「契約後に許認可が取れないと判明するケース」です。用途地域の出店可否・保健所の施設基準(二層シンク・手洗い専用設備・食器棚の扉)・消防法の防火設備の3軸でNG物件を見分ける方法を解説。居抜き物件の引継ぎリスクや契約前の事前相談の進め方まで網羅した、初出店オーナー必読の実務ガイドです。

飲食店の物件選びには「3つの許認可軸」があります。用途地域(建築基準法・都市計画法)・保健所の施設基準(食品衛生法)・消防設備(消防法) の3軸です。この3つをすべてクリアしなければ、内装工事が完成していても開業できません。
よくある失敗は「気に入った物件を契約・着工してから、いずれかの許認可が取れないと判明するケース」です。特に用途地域の問題は工事でどうにもなるものではなく、物件そのものを見直すしかありません。だからこそ、用途地域の確認が最初の関門になります。
賃貸でも購入でも確認の手順は同じです。「売り物件だから用途に問題ない」とは限らず、前の所有者がどんな用途で使っていたかに関わらず、自治体の都市計画で定められた用途地域の制限は変わりません。
不動産仲介業者が用途地域を把握していないケースや、「確認しておきます」と言いながら書面での確認が曖昧になるケースも現実にあります。自分でも確認する姿勢が重要です。
都市計画法では市街化区域を13種類の用途地域に分類しており、各用途地域でどのような建物が建てられるか(飲食店を出店できるか)は、建築基準法第48条・別表第二で定められています。飲食店の出店可否は床面積によって変わり、法令上の面積区分は 150㎡/500㎡/1,500㎡/3,000㎡/10,000㎡ が節目になります。
まず、最も小規模な区分である床面積150㎡以下の飲食店の出店可否は次のとおりです。
用途地域 | 出店可否(150㎡以下の飲食店) |
|---|---|
第一種低層住居専用地域 | ✕ 原則禁止(住宅兼用で非住宅部分50㎡以下等の例外あり) |
第二種低層住居専用地域 | ○ 可(150㎡以下・2階以下) |
第一種中高層住居専用地域 | ○ 可(500㎡以下・2階以下) |
第二種中高層住居専用地域 | ○ 可(1,500㎡以下・2階以下) |
第一種住居地域 | ○ 可(3,000㎡以下) |
第二種住居地域 | ○ 可 |
準住居地域 | ○ 可 |
田園住居地域 | ○ 可(150㎡以下・2階以下。地域農産物を使う農家レストラン等は500㎡以下まで可) |
近隣商業地域 | ○ 可 |
商業地域 | ○ 可 |
準工業地域 | ○ 可 |
工業地域 | ○ 可(10,000㎡以下) |
工業専用地域 | ✕ 原則禁止 |
床面積が大きくなるにつれて出店できる用途地域は絞られていきます。150㎡を超えると第二種低層住居専用地域や田園住居地域では原則出店できなくなり、500㎡を超えると第一種中高層住居専用地域でも不可になります。3,000㎡超〜10,000㎡以下の大型店は第二種住居・準住居・近隣商業・商業・準工業・工業地域で出店可能で、10,000㎡を超える超大型店になると近隣商業・商業・準工業地域に限られます。
面積・階数にかかわらず原則として飲食店を出店できないのは、第一種低層住居専用地域と工業専用地域の2つです。第一種低層住居専用地域は閑静な住宅街を守るための地域区分で、騒音・臭気・人の出入りを発生させる店舗は厳しく制限されています。なお、同じ「低層住居専用」でも第二種低層住居専用地域では150㎡以下・2階以下なら出店できるため、名称だけで諦めず必ず数値要件まで確認しましょう。
用途地域とは別に防火地域・準防火地域の指定も確認が必要です。これは出店の可否には直結しませんが、防火地域内では階数3以上(地階を含む)または延べ面積100㎡超の建築物は耐火建築物等とし、それ以外の建築物も準耐火建築物等としなければなりません(建築基準法第61条)。このため、増改築や内装・外装工事のコストが大幅に上がる可能性があります。
用途地域の確認は以下の手順で進めます。
ステップ1:ネットで仮確認する 国土交通省が提供する「不動産情報ライブラリ」(2024年4月運用開始)や各自治体の都市計画GISマップで、物件の住所を入力すると用途地域が地図上で表示されます。スマートフォンでも確認できるため、内見前に済ませておきましょう。
ステップ2:内見時に不動産業者へ書面確認を求める 内見当日、仲介担当者に「この物件の用途地域と飲食店出店の可否を書面で教えてください」と依頼します。口頭確認だけでは後からトラブルになるため、物件概要書や重要事項説明書への記載を確認します。
ステップ3:契約前に市区町村窓口で最終確認する 仮押さえ後・契約締結前のタイミングで、市区町村の都市計画課(または建築指導課)に直接訪問して最終確認します。「この住所で床面積○○㎡の飲食店を開業したい」と伝えれば、担当者が用途地域と出店可否を明確に回答してくれます。
2018年に改正された食品衛生法が2021年6月に完全施行され、HACCPに沿った衛生管理が制度化されるとともに、営業許可制度の見直しによって飲食店の施設基準が全国的に平準化されました。保健所が確認する施設基準は「物件の構造と設備そのもの」に関わるため、後から改修できないケースや費用が膨らむケースがあります。
保健所の許認可確認で重要なのは「物件の内見段階から自分でスクリーニングできる目線を持つこと」です。以下では、内見時に見るべき具体的な設備のNGパターンを解説します。
なお、居抜き物件特有のリスクについてもこのセクションで完結させます。
保健所の施設基準では、次の2つが別々に独立して必要です。
シンクの槽数について、食品衛生法施行規則の共通基準は「使用目的に応じた大きさ及び数の洗浄設備」と定めており、2槽以上を全国一律に義務付ける法令上の規定はありません。ただし実務上は、「食材を洗う槽」と「器具・食器を洗う槽」を分離して交差汚染を防ぐ観点から、多くの保健所の運用・指導で2槽シンクが求められています。必要な槽数は管轄の保健所に必ず確認してください。
手洗い専用設備は、調理中にこまめに手を洗う際に調理スペースを汚染しないよう、調理動線上に単独で設置する必要があります。2021年6月以降の新施設基準では、水栓が「洗浄後の手指の再汚染を防止できる構造」であること、つまりレバー式やセンサー式などの蛇口であることも求められるようになりました。
内見時に以下のパターンを発見したら要注意です。
後付けでシンクを増設する場合、給排水の配管工事を含めてシンク1台あたり15〜30万円程度が目安ですが、工事内容や地域によって大きく変動します。工期は業者次第ですが1〜2週間を見込んでください。物件の床・壁の材質によって追加費用が発生することもあります。
食品衛生法施行規則に基づく施設基準では、食器・調理器具の保管場所について「食品等を衛生的に保管できる設備」であることが求められ、ねずみ・昆虫等の侵入を防止する措置も必要とされています。この要件を満たす手段として、実務上は扉付きの食器棚(戸棚)が標準とされており、多くの保健所で扉付きであることを前提に指導が行われます。
NGになりやすいパターンは次のとおりです。
素材についてはステンレス製が推奨されます。理由は清掃が容易で腐食耐性が高く、保健所の検査でも指摘を受けにくいためです。木製棚が絶対禁止というわけではありませんが、「表面が清掃しやすい構造」を求められるため、塗装の剥がれや染み込みがある木製棚は指摘対象になります。
既製品のステンレス食器棚は幅90cm前後で3〜8万円程度から入手できる場合があります(製品・購入経路により変動します)。業務用厨房機器専門店やオークションサイトを活用すれば費用を抑えられます。
最初に誤解を訂正します。前のテナントが取得した飲食店営業許可は、新しいテナントには引き継がれません。 あなたが改めて申請し、保健所の検査を受けて許可を取得する必要があります。
居抜き物件が抱えやすいリスクは主に3つです。
居抜き物件での確認フローは次の順序が基本です。
改修が必要になった場合のコスト目安として、シンク増設で15〜30万円、手洗い設備追加で10〜20万円、換気設備の改修で30〜80万円程度が挙げられますが、いずれも工事内容・物件の状態・地域によって大きく変動する目安と考えてください。これらの費用が積み重なると、「造作譲渡料ゼロ円の居抜き物件」でも実質コストがスケルトン物件に近づくことがあります。
居抜き物件自体を否定するわけではありません。設備確認を経た上で「この物件なら改修費を含めても十分に安い」と判断できれば、居抜きは有力な選択肢です。
保健所の事前相談は無料が一般的で、契約前・着工前の段階から利用できます(予約の要否は自治体により異なるため、事前に電話で確認・予約しておくのが確実です)。「まだ仮押さえ段階で正式契約もしていない」という状況でも相談は可能です。むしろ、この段階が最も費用対効果の高いタイミングです。
持参すべき資料は以下のとおりです。
相談時に確認すべき質問例は次のとおりです。
相談窓口は物件所在地を管轄する保健所の食品衛生担当窓口です。政令市・中核市・東京23区などの保健所設置自治体では市(区)の保健所、それ以外の地域では都道府県の保健所が担当します。
消防法は飲食店に対し、用途・面積・階数に応じた防火設備の設置を義務付けています。問題になりやすいのが「用途変更時の遡及適用」です。事務所や倉庫だった物件を飲食店に変更する際、現行の消防法基準に合わせた設備設置が求められ、想定外の追加工事費用が発生するケースがあります。
物件内覧時には目視でチェックできる項目があります。設備が不十分・老朽化していると判断した場合は、契約前に消防署予防課への事前確認を行いましょう。追加工事が必要な場合、その費用を貸主・借主どちらが負担するのかを賃貸借契約書で明確にしておくことも重要です。
飲食店に関わる主な消防設備は次の4種類です。
設備 | 設置の目安 |
|---|---|
消火器 | 延床面積150㎡以上。さらに2019年10月の改正により、火を使用する設備・器具を設けた飲食店は延床面積にかかわらず設置義務(調理油過熱防止装置等の防火上有効な措置が講じられたものを除く) |
自動火災報知設備 | 延床面積300㎡以上(地階・無窓階は100㎡以上など、用途・構造によって異なる) |
排煙設備 | 建築基準法上は延床面積500㎡超の特殊建築物等が対象。消防法にも別途基準があり、両者で要件が異なる |
誘導灯 | 飲食店は特定防火対象物にあたるため、面積・収容人員にかかわらず原則設置義務(避難口までの歩行距離が短い場合等の免除要件あり) |
内見時の目視チェックリストは以下のとおりです。
設備がない・または老朽化している場合は、契約前に物件所在地を管轄する消防署の予防課(または予防係)に相談してください。
事務所・倉庫・その他の用途から飲食店に変更する場合、床面積200㎡を超える用途変更では建築確認申請が必要になり(建築基準法第87条。2019年6月の改正で100㎡超から200㎡超に緩和。類似用途間の変更は不要となる例外あり)、消防検査も改めて受けることになります。
特に注意が必要なのが遡及適用の問題です。古い建物の場合、建築当時の基準の設備水準で建てられているため、用途変更を機に現行基準への対応が求められます。具体的には次のような工事が発生しうるケースがあります。
賃貸借契約を締結する前に、物件オーナーとの間で「消防設備の現況・検査済証の有無・用途変更後の追加工事費用の負担区分」を書面(覚書・特約条項)で明確にしておきましょう。「設備工事は借主負担」という条件で契約し、後から数百万円の工事費用が発生するケースを防ぐことができます。
保健所が確認する主な施設基準の項目は次のとおりです。①使用目的に応じた大きさ・数の洗浄設備(多くの保健所で2槽以上のシンクが求められます)、②手洗い専用設備が独立して設置され、水栓が再汚染防止構造であること、③食器・器具を衛生的に保管できる設備(実務上は扉付きが標準)、④給排水設備(上下水道への接続)、⑤換気・採光・照明の確保、⑥厨房と客席の区画。各要件の詳細は、本文の「保健所の施設基準から見るNG物件の特徴と事前相談の進め方」セクションで解説しています。
結論として、調理・洗浄用のシンクと手洗い専用設備は別物であり、兼用は認められません。シンクは食材・器具・食器の洗浄に使う調理用設備で、手洗い専用設備は調理中の手指衛生のみに使います。調理・洗浄・手洗いの用途を分離することで食品汚染リスクを下げる構造が求められているためです。なお、シンクの槽数について「2槽以上」を全国一律に義務付ける法令はありませんが、多くの保健所の運用で2槽が求められるため、管轄保健所への確認をおすすめします。
施設基準では食器・器具を「衛生的に保管できる設備」が求められており、ほこりや害虫の侵入を防げない開放棚や、布カーテン・暖簾で覆っただけの棚では基準を満たさないと判断されるのが一般的です。この要件を満たす手段として、実務上は扉付きの戸棚が標準とされています。扉が破損・脱落している場合も指摘対象になります。
前テナントの許可は引き継げません。新規申請として改めて施設検査を受ける必要があります。既存設備が現行の施設基準を満たしていれば追加工事なしで許可が取れる可能性はありますが、経年劣化・法改正(2021年6月施行の新施設基準)・業種変更による基準の差異で改修が必要になるケースが多いです。契約前に保健所へ事前相談し、設備の適否を確認することを強く推奨します。
あります。第一種低層住居専用地域と工業専用地域では飲食店の出店が原則禁止されています。また、第二種低層住居専用地域(150㎡以下・2階以下なら可)や第一種中高層住居専用地域(500㎡以下・2階以下なら可)など、面積・階数の条件付きでのみ出店できる地域もあります。調べ方は、国土交通省の「不動産情報ライブラリ」や各自治体の都市計画GISに住所を入力するか、市区町村の都市計画課窓口で確認できます。本文の「用途地域の調べ方」セクションで3ステップの確認フローを解説しています。
内見時は①排煙設備(排煙口・排煙窓)、②火災報知器(感知器)、③消火器の設置状況、④誘導灯の点灯状況を目視で確認します。加えて、「前の用途が飲食店以外の場合に用途変更で遡及適用が発生するリスク」を見ておく必要があります。不明点は契約前に消防署予防課に相談し、工事が必要な場合の費用負担を物件オーナーと書面で確認してください。
無料で可能であり、契約前が最も適切なタイミングです。仮押さえ段階での相談にも対応しています。手書きで構わないので物件の平面図(厨房・客席・トイレの配置)を準備し、管轄保健所の食品衛生担当窓口に電話で確認・予約のうえ訪問してください。
定期的な監視指導(立入検査)の頻度は、各自治体が定める食品衛生監視指導計画に基づき、業種ごとのリスク区分に応じて決められています。食中毒リスクが高い業種ほど頻度が上がる傾向があります。営業許可の更新は多くの自治体で5〜8年ごとに必要で、更新時にも施設検査が実施されます。開業時に基準を満たした設備を維持し続けることが、更新検査をスムーズに通過するための基本です。
定期監視指導での指摘は、通常即時営業停止ではなく改善指導→改善報告→再確認という流れをたどります。ただし食中毒の発生や重大な衛生違反が認められた場合は、食品衛生法に基づく営業停止処分が下ることがあります。通報(苦情・食中毒疑い)を端緒とした立入検査では、指摘された事項への迅速な対応が求められます。開業時に施設基準を満たした設備を維持し、清掃・記録(HACCPに沿った衛生管理の記録)を適切に継続することが最大の対策です。
内装工事完了の10日前を目安に、物件所在地を管轄する保健所へ提出します(提出時期の目安は自治体により異なるため事前に確認してください)。主な提出書類は次のとおりです。
申請後に保健所の施設検査が行われ、基準を満たしていれば許可証が交付されます。詳細な申請手順については、飲食店営業許可の申請手順を解説した記事も参照してください。
本記事の金額・制度情報は執筆時点の目安です。実際の費用は業態・規模・地域・時期により異なり、補助金・融資・許認可・税の最新かつ正確な情報・要件は各公式(日本政策金融公庫・中小企業庁・各自治体・税務署等)で必ずご確認ください。
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