居抜き物件とスケルトン物件の定義・語源から、坪数別(10坪・15坪・20坪・30坪)のスケルトン内装工事費用相場、居抜きの造作譲渡費と交渉ポイント、両者のメリット・デメリット、工事期間の違い、業態・予算・スケジュール別の選び方まで徹底解説。飲食店を初めて開業するオーナーが物件タイプを迷わず選べる実践ガイドです。

「居抜き」とは、前のテナントの内装・設備が「抜かれずに」そのまま残った状態を指す不動産用語です。語源には諸説あり、代表的なのは「居(人がいる状態)を抜く」——つまり設備や内装を残したまま人だけが退去することに由来するという説です。ほかに、関西でゆで卵を指す「煮抜き」が転じたとする説も紹介されています。いずれにせよ、不動産業界では「前テナントが使用していた内装・厨房設備・家具などがそのまま残っている物件」を指す表現として定着しています。
一方、「スケルトン」は建築用語で「骨格」を意味する英語に由来します。コンクリートの躯体・柱・床・天井のスラブだけが残り、内装がゼロの状態——いわば"骨組みだけ"の空間です。居抜きの対義語に相当する概念で、事業用物件では退去時にこのスケルトン状態へ戻す原状回復(いわゆる「スケルトン戻し」)を求める契約が一般的です。なお、原状回復とは厳密には「借りた時点の状態に戻すこと」を指すため、契約内容によっては居抜き状態のまま退去できる場合もあります。スケルトン=原状回復済み、と単純にイコールで結べるわけではない点に注意してください。
居抜きの反対語はスケルトンという対比関係を押さえておくと、物件情報を見たときに判断に迷わなくなります。
居抜き物件にはさらに2種類のバリエーションがあります。
また、居抜き物件を借りる際には「造作譲渡費」が発生する場合があります。これは前テナントが造作した内装・設備一式を買い取る費用で、物件によって数十万円から300万円程度と幅があり、なかには無償(0円)で譲渡されるケースもあります。この費用の扱いが、居抜きとスケルトンの総コスト比較に大きく影響します。次のセクションで詳しく確認しましょう。
物件タイプを選ぶ判断軸として最もわかりやすいのが、初期費用の構成と総額です。居抜きとスケルトンそれぞれの費用構成を整理します。
居抜き物件の初期費用構成
費用項目 | 概算レンジ |
|---|---|
保証金(敷金) | 賃料の6〜10ヶ月分程度(物件により3〜12ヶ月分) |
礼金 | 賃料の0〜2ヶ月分 |
造作譲渡費 | 0円〜300万円程度(相場は100〜300万円) |
補修・リフォーム費 | 10万〜100万円程度 |
合計(内装工事除く) | 200万〜700万円程度 |
スケルトン物件の初期費用構成
費用項目 | 概算レンジ |
|---|---|
保証金(敷金) | 賃料の6〜10ヶ月分程度(物件により3〜12ヶ月分) |
礼金 | 賃料の0〜2ヶ月分 |
内装工事費 | 300万〜2,000万円以上(坪数・業態による) |
設計費 | 工事費の10〜15%程度(設計施工一括の業者なら5%程度に下がる場合あり) |
合計(厨房機器・家具別途) | 500万〜2,500万円以上 |
※上記の合計はあくまで概算であり、賃料水準・坪数・業態によって大きく変動します。事業計画では実際の物件条件に基づいて積算してください。
「居抜きは必ず安い」と思われがちですが、造作譲渡費が高額な場合はこの前提が崩れます。たとえば造作譲渡費250万円の居抜き物件と、小規模スケルトンで内装工事費300万円のケースを比べると、差はわずか50万円です。設備の老朽化リスク(後述)も加味すると、スケルトンを選んだほうがトータルコストで有利になる場合もあります。造作譲渡費の妥当性は必ず精査し、前テナントの設備が実際に使える状態かを確認したうえで判断してください。
スケルトン物件の内装工事費は、坪単価の目安として30〜60万円/坪が一般的です。ただし近年は資材費・人件費の高騰により、ラーメン店・焼肉店などガスを多用する重飲食では60〜80万円/坪に達するケースも報告されています。換気ダクトや消火設備が加算されるため、上限を超えることも珍しくありません。以下は業態別の概算目安です。
坪数 | 軽飲食(カフェ・テイクアウト等) | ガス使用店(定食・居酒屋等) | 本格飲食店(ラーメン・焼肉等) |
|---|---|---|---|
10坪 | 300〜400万円 | 400〜550万円 | 500〜700万円 |
15坪 | 450〜600万円 | 600〜825万円 | 750〜1,050万円 |
20坪 | 600〜800万円 | 800〜1,100万円 | 1,000〜1,400万円 |
30坪 | 900〜1,200万円 | 1,200〜1,650万円 | 1,500〜2,100万円 |
※上記は内装工事費の参考レンジです。設計費・厨房機器・家具・サイン工事は別途となります。
また、スケルトン物件でトイレが未設置の場合はトイレ新設費として50〜100万円前後が別途かかります(配管の移設など大幅なレイアウト変更を伴う場合は120万円超になるケースもあります)。スプリンクラーの設置義務がある物件や、排煙・換気ダクトの大規模工事が必要な場合はさらに数十万〜数百万円の加算が見込まれます。物件を決める前に施工業者へ簡易見積を依頼し、「見えないコスト」を事前に洗い出しておくことが重要です。
スケルトン物件の開業準備にかかる期間は規模によって大きく異なります。施工工事そのものは20〜30坪でも1〜1.5ヶ月程度ですが、実際には設計・打ち合わせ・見積・契約の期間が加わるため、トータルでは次のような目安になります。
一方、居抜き物件は補修・内装変更が軽微であれば数週間〜1ヶ月程度での開業が可能です。スケルトンとの工期差は2〜3ヶ月以上生じる計算になります。
この差が資金繰りに直撃します。工事期間中も毎月の家賃は発生しますが、売上はゼロです。たとえば月額賃料20万円の物件でスケルトン工事に3ヶ月かかれば、それだけで60万円の「ゼロ売上家賃」が積み上がります。日本政策金融公庫の創業融資実務でも、開業時には3〜6ヶ月分の運転資金の確保が推奨されています。この期間を含めた運転資金をあらかじめ確保しておかないと、開業前に資金繰りが苦しくなるリスクがあります。事業計画書を作成する際は、工事期間中のキャッシュアウトを必ず織り込みましょう。
費用だけでなく、業態・コンセプト・運営期間によって最適な物件タイプは変わります。ここでは両者の特性と、実際の判断基準を整理します。
メリット
デメリット
さらに見落とされがちなのが、退去時の原状回復費用です。居抜きで引き受けた内装をスケルトン状態に戻す義務が契約に含まれている場合、撤去コストは坪あたり3〜10万円程度が目安となり、10〜20坪規模なら50〜200万円以上になることもあります。契約前に原状回復の範囲と費用負担を必ず確認してください。
メリット
デメリット
DIYの可否について
コスト削減を目的としたDIYは、壁紙の貼り替え・塗装・棚の設置といった軽作業であれば認められるケースがあります。しかし以下の工事は、それぞれの法令により有資格者による施工が義務付けられており、無資格でのDIYはできません。
これらを無資格で施工した場合、消防検査・保健所の検査で不合格となり開業できないリスクがあるうえ、電気工事のように法令上の罰則対象となるものもあります。DIYを検討する際は、施工業者との間で「DIY可能な範囲」を書面で確認しておくことが必須です(賃貸借契約やビル管理規約上の承諾が別途必要な場合もあります)。
以下のチェックリストで、より多くの□に当てはまるほうが自分の状況に合った選択肢です。
居抜き物件が向いているケース
スケルトン物件が向いているケース
3軸の比較早見表
判断軸 | 居抜き物件 | スケルトン物件 |
|---|---|---|
初期費用 | ◎ 低〜中 | △ 高い |
デザイン自由度 | △ 制約あり | ◎ 完全自由 |
開業スピード | ◎ 速い(〜1ヶ月) | △ 遅い(3〜4ヶ月程度) |
「今すぐ少ない資金で試したい」なら居抜き、「10年かけてブランドを育てる」ならスケルトンと、時間軸と投資回収の視点で判断するのが実用的なアプローチです。
居抜き物件は前テナントの内装・設備がそのまま残っている物件、スケルトン物件はコンクリート躯体のみで内装がゼロの物件です。「居抜きの反対語がスケルトン」と覚えると整理しやすいでしょう。物件探しの段階でこの違いを理解しておくと、費用・工期・デザイン自由度の見通しが一気に立てやすくなります。
原則として居抜き物件のほうが初期費用を抑えられます。ただし造作譲渡費が200万円を超えるような高額な居抜き物件では、小規模スケルトンとの費用差がほぼなくなるケースがあります。費用だけで判断せず、設備の状態・工期・業態との適合性を総合的に評価することが重要です。
主な注意点は①設備の老朽化による開業後の突発修繕費、②前テナントのレイアウトによる業態制約、③造作譲渡費の不透明さ・割高リスク、④前テナントのネガティブなイメージの残存——の4点です。加えて、退去時に原状回復(スケルトンに戻す)費用が発生する契約条件になっていないかを、契約前に必ず確認してください。
坪単価の目安は30〜60万円/坪で、重飲食では60〜80万円/坪に達する場合もあります。10坪の軽飲食なら300〜400万円、30坪の本格飲食店では1,500〜2,100万円が参考レンジになります。費用は業態(ガス使用・排煙設備の有無)、立地(地域によって職人費が変動)、設備グレードによって大きく変動するため、複数の施工業者に見積を依頼して実態値を把握することをおすすめします。
施工工事そのものは1〜1.5ヶ月程度でも、設計・打ち合わせ・見積・契約を含めると、10坪前後の小規模店舗で約2〜3ヶ月、20〜30坪の中規模店舗では約3〜4ヶ月が目安です。居抜き物件が数週間〜1ヶ月程度で開業できることと比べると、2〜3ヶ月以上の差が生じます。この期間は売上がゼロのまま家賃が発生するため、工事期間を見越した運転資金を事前に確保しておくことが不可欠です。
前テナントと業態が近い場合(例:洋食レストランの居抜きで同じく洋食業態を開業する)は、既存の厨房設備・ダクトをほぼそのまま活用できるため最もコスパが高くなります。また、開業資金が限られている・テスト出店でスピードを重視する・立地条件を最優先にするケースでも居抜きが有利です。デザインの独自性より「まず開業して集客を検証したい」フェーズのオーナーに向いています。
内装デザインがブランドの核心であり他店との差別化に直結する場合、または特殊な厨房設備(大型グリル・専用換気システムなど)が業態上必須な場合はスケルトン一択です。また、10年以上の長期運営を前提として初期投資の償却計算が立つケース、十分な準備期間と運転資金が確保できているケースにも適しています。
造作譲渡費とは、前テナントが設置した内装・厨房設備・家具一式を次のテナントが買い取る費用です。金額は前テナントが設定しますが、交渉の余地は十分あります。交渉が通りやすいケースは、前テナントが早期退去を希望している・設備が明らかに老朽化している・競合する申込者がいない場合です。一方、オーナー側が価格を指定している・複数の候補者が競合している場合は値引き交渉が難しくなります。設備の査定書やリースバック相場を根拠として提示すると、交渉の説得力が増します。
本記事の金額・制度情報は執筆時点の目安です。実際の費用は業態・規模・地域・時期により異なり、補助金・融資・許認可・税の最新かつ正確な情報・要件は各公式(日本政策金融公庫・中小企業庁・各自治体・税務署等)で必ずご確認ください。
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