飲食店開業における商圏人口の重要性
飲食店を開業するとき、「どこに出店するか」という立地選定は成功を左右する最も重要な要素の一つです。立地が良ければ、相応の売上が見込めますが、立地選定を誤ると、どんなに素晴らしい料理やサービスを提供しても集客に苦労することになります。
スーパーや飲食店などの売上げを左右する要因は、提供する商品、販売方法、店舗の大きさ、スタッフのサービスなど様々ありますが、チェーン店のように商品やサービスが標準化されていても、店舗によって売上は大きく異なります。この売上の違いを生み出す大きな要因の一つが「立地」です。店舗の立地が適切でないと、売上向上は難しく、一度開店した店舗を閉鎖し別の場所に移転するのは大きなコストがかかるため、出店計画時には立地選定を慎重に行う必要があります。
立地選定において最も重要な指標となるのが「商圏人口」です。商圏人口とは、お店の周辺に住んでいる人や働いている人の数のことで、潜在的な顧客数を示す重要な指標となります。この記事では、飲食店開業を成功させるための商圏人口の分析方法と、立地選定のポイントを詳しく解説します。
商圏とは?商圏人口を理解する
商圏の基本的な考え方
商圏とは、あなたの店舗に顧客が訪れる可能性のあるエリアのことです。一般的に商圏は、店舗からの距離や時間によって以下のように分類されます:
- 一次商圏:店舗から徒歩5〜10分程度(約500m〜1km圏内)
- 二次商圏:店舗から車や自転車で10〜15分程度(約1km〜3km圏内)
- 三次商圏:店舗から車や電車で20〜30分程度(約3km以上)
飲食店の場合、業態によって主要な商圏は異なります。例えば、カフェや居酒屋などは一次商圏が重要になりますが、有名店や特色のある専門店は二次・三次商圏からも集客できる可能性があります。
商圏人口の調査方法
商圏人口を調査する際には、町丁別の人口・世帯動向の資料を入手して算出する方法があります。また、インターネットから既製の人口分布調査データを入手できるサービスも存在しています(有料のものが多い)。
商圏人口を調査するための主な方法には以下のようなものがあります:
- 自治体の統計データ活用:各市区町村が公開している人口統計データを活用する
- 国勢調査データの分析:立地検討の際には、出店予定地域の人口、男女・年齢別人口、昼間人口・夜間人口、世帯数、単身世帯数、学生数などの基礎的な情報を踏まえることが必要で、国勢調査などの統計調査結果が役立ちます。
- 民間の商圏分析ツール利用:GISシステムなど地理情報システムを活用したツールの利用
- 現地調査の実施:実際に現地に足を運び、人通りや周辺環境を調査する
商圏人口データを収集する際は、単に総人口だけでなく、年齢層や世帯構成、昼間人口と夜間人口の違いなど、質的な側面も含めて分析することが重要です。
飲食店タイプ別・理想的な商圏人口の目安
飲食店の業態によって、必要とされる商圏人口は大きく異なります。以下に代表的な飲食店タイプ別の理想的な商圏人口の目安を示します。
カフェ・喫茶店
カフェや喫茶店は比較的小規模な店舗が多く、常連客の利用頻度も高い傾向があります。
- 一次商圏(徒歩圏内)人口:3,000〜5,000人程度
- 商圏特性:オフィス街であれば昼間人口が重要、住宅街であれば若年層から中高年層まで幅広い年齢層が対象
居酒屋・バー
居酒屋やバーは夜間の利用が中心となるため、昼間人口よりも夜間人口や帰宅途中の会社員などを考慮する必要があります。
- 一次商圏人口:5,000〜10,000人程度
- 商圏特性:駅周辺や繁華街など、夜間の人通りが多い場所が理想的
ファミリーレストラン・定食屋
家族連れや幅広い年齢層をターゲットとするファミリーレストランや定食屋は、より広い商圏からの集客が必要です。
- 一次〜二次商圏人口:10,000〜20,000人程度
- 商圏特性:住宅街や郊外など、家族層の多いエリアが適している
高級レストラン・専門料理店
高級レストランや特色のある専門料理店は、広域からの集客が見込めますが、一定の所得水準の顧客が必要です。
- 一次〜三次商圏人口:20,000人以上
- 商圏特性:所得水準の高いエリアや、特別な料理を求めて遠方からも訪れる顧客が見込めるエリア
商圏人口だけでは判断できない重要要素
商圏人口は重要な指標ですが、これだけで立地の良し悪しを判断することはできません。以下のような要素も合わせて検討することが大切です。
競合店の状況
例えばコーヒーが自慢のカフェを開店する場合、周辺の喫茶店やカフェは直接競合となります。同じ業態で同じ商品を提供する直接競合は最も意識すべき存在です。さらに、ファミリーレストランやハンバーガーショップ、洋食店、コンビニなど、カフェではないもののコーヒーを提供する店舗も間接競合として考慮する必要があります。さらに、例えば落ち着いた雰囲気でおいしいコーヒーを提供するカフェのコンセプトであれば、癒しの空間を提供するエステサロンなども代替品として競合関係になる可能性があります。このように競合関係は非常に幅広いものです。
商圏内の顧客層の質
商圏内の動向を把握するためには、数値データ以外にも、数字で表現しにくいデータを収集することも重要です。商圏内顧客のライフスタイルや価値観、可処分所得などは客観的データとしては表れにくいものですが、例えば近隣に高校・大学などの学校や、大きな会社、映画館やショッピングセンターなどの集客施設がある場合、そこにいる人々がどのような価値観・ライフスタイル・所得層なのかを調査・分析することが有益です。実際に現地に行ってみる、そこにいる人たちを読者層としている雑誌を読んでみる、そこで働いている人たちに話を聞いてみるなど、なるべく近い距離から得られる情報をもとに、自店の商品を売り込む余地がないか検討することが大切です。
アクセスの良さと視認性
商圏人口が多くても、アクセスが悪かったり、店舗が見つけにくい場所にあったりすると、実際の集客につながらないことがあります。駅からの距離、主要道路からの視認性、駐車場の有無なども重要な判断要素です。
賃料とのバランス
商圏人口が多い一等地は当然賃料も高くなります。想定される売上と賃料のバランスを考慮し、投資回収が可能かどうかを慎重に検討する必要があります。
商圏人口分析の実践的ステップ
実際に商圏人口を分析するための具体的なステップを紹介します。
STEP1:出店候補地の選定
まずは自分の店舗コンセプトに合う出店候補地をいくつかピックアップします。この段階では、直感や経験をもとに、可能性のあるエリアを広く選定しておきましょう。
STEP2:基礎データの収集
選定した候補地について、以下のような基礎データを収集します:
- 人口統計データ(年齢別・性別人口、世帯数など)
- 昼間人口と夜間人口のデータ
- 周辺の商業施設や企業、学校などの情報
- 交通量や駅の乗降客数などのデータ
STEP3:商圏の設定と人口算出
候補地ごとに一次商圏、二次商圏、三次商圏を設定し、それぞれの商圏内の人口を算出します。この際、単純な居住人口だけでなく、オフィスワーカーや学生など、昼間に活動する人口も考慮しましょう。
STEP4:競合分析
商圏内の競合店を調査し、以下の点を分析します:
- 直接競合店の数と提供サービス
- 間接競合店の状況
- 競合店の価格帯やターゲット層
- 競合店の強みと弱み
STEP5:総合評価
収集したデータをもとに、各候補地を総合的に評価します。商圏人口の多さだけでなく、競合状況、アクセスの良さ、賃料とのバランスなどを考慮して、最適な出店地を決定しましょう。
商圏人口分析で陥りやすい落とし穴
商圏人口分析を行う際によくある失敗パターンを紹介します。これらの落とし穴を避けることで、より精度の高い立地選定が可能になります。
単純に人口の多さだけで判断する
商圏人口が多いエリアは競合も多いことが一般的です。単純に人口の多さだけで判断するのではなく、競合状況や差別化できるポイントも考慮しましょう。
昼間人口と夜間人口の違いを見落とす
オフィス街は昼間は人口が多くても、夜間は人口が少なくなります。逆に住宅街は夜間人口が多くなります。自店の営業時間と商圏の人口変動を合わせて考えることが重要です。
データが古い情報に基づいている
人口統計データは数年単位で更新されることが多いため、最新の状況を反映していない可能性があります。データの収集日を確認し、必要に応じて現地調査で補完しましょう。
商圏の重複を考慮していない
近接した複数の商圏が重複している場合、単純に人口を足し合わせると過大評価になります。商圏の重複を考慮した適切な人口算出が必要です。
商圏人口が少なくても成功する飲食店の特徴
商圏人口が少ないエリアでも成功している飲食店には、以下のような特徴があります。これらの特徴を参考に、自店の差別化戦略を考えてみましょう。
独自性と希少価値の創出
商圏内で唯一の料理や、特別な体験を提供することで、広域からの集客が可能になります。他店にはない価値を提供できれば、わざわざ足を運んでもらえる店舗になります。
地域コミュニティとの強い結びつき
地域住民との信頼関係を構築し、常連客を獲得することで安定した経営が可能になります。地域イベントへの参加や、地元食材の活用など、地域に根差した経営を心がけましょう。
高いリピート率の実現
一度来店した顧客に何度も訪れてもらえるよう、顧客体験の質を高めましょう。顧客情報の管理や、個別対応によるホスピタリティの向上が重要です。
SNSやメディアの効果的活用
インスタグラムなどのSNSで話題になることで、商圏外からも集客できる可能性が高まります。写真映えするメニューや店内装飾などを工夫しましょう。
まとめ:飲食店開業成功のための商圏人口活用法
飲食店開業において、商圏人口分析は立地選定の重要な判断材料になります。しかし、単純に商圏人口の多さだけで判断するのではなく、以下のポイントを総合的に考慮することが大切です:
- 店舗コンセプトに合った商圏の選定
- 競合状況と差別化戦略の検討
- 昼間人口と夜間人口の適切な評価
- 商圏内の顧客層の質的分析
- アクセスの良さと視認性の確保
- 賃料とのバランス考慮
また、商圏人口が少ないエリアでも、独自性の創出やコミュニティとの結びつき、高いリピート率の実現などによって成功している飲食店は多くあります。自店の強みを活かし、商圏特性に合わせた戦略を立てることが、飲食店開業成功の鍵となるでしょう。
商圏人口分析は出店前の重要なステップですが、開業後も定期的に商圏の変化を監視し、必要に応じて戦略を修正していくことが長期的な成功につながります。綿密な準備と柔軟な対応で、飲食店開業の夢を実現させましょう!
全体像はこちら:商圏分析で失敗リスクを9割減らす方法