飲食店を初めて開業するオーナー向けに、スタッフ採用の全工程を網羅したガイド。求人計画の立案から媒体選定・求人票の書き方・面接の進め方・内定後の労務手続きまでを個人経営店の目線でステップ形式で解説。採用コストの相場、未経験者や50代の採用対応、すぐ辞めない職場をつくる定着設計まで一気通貫でわかります。

飲食店の開業準備は、物件・内装・メニュー開発と並行して「人」の確保が欠かせません。しかし多くの初めてオーナーが、採用着手のタイミングを見誤って開業直前に慌てるケースが後を絶ちません。
この記事では、スタッフ採用の全工程を以下の順序で解説します。
フェーズごとに章立てしていますので、「今まさに直面している課題」から読み進めるのも問題ありません。
採用活動を開始するベストタイミングは、物件契約締結直後〜内装工事の着工期です。内装工事期間(一般に1〜2か月)を採用活動と並走させることで、工事完了と同時に戦力が揃う状態を目指せます。
各フェーズのリードタイムの目安は以下のとおりです。
フェーズ | 目安期間 |
|---|---|
求人原稿作成・媒体掲載申込 | 3〜7日 |
応募受付・書類選考 | 1〜2週間 |
面接・内定通知 | 1〜2週間 |
労務書類・入社手続き | 1〜2週間 |
入社研修・オペレーション習得 | 2〜4週間 |
合計すると最短でも約2か月は必要です。開業1か月前に採用活動を始めると、研修時間がほぼ取れず「初日から即戦力」を求めざるを得なくなります。結果として採用基準が下がったり、入社後のミスマッチが増えたりするリスクがあります。
必要なスタッフ数は、客席数・営業時間帯(ランチ/ディナー区分)・業態(ホール中心かキッチン中心か) の3軸で概算します。たとえば20席のカフェでランチのみ営業するケースと、40席の居酒屋で18時〜深夜2時まで営業するケースでは、必要人員はまったく異なります。詳細な人員試算の手順は「採用人員計画の立て方」クラスター記事で解説しますが、まずは「ピーク時に最低何名いれば回るか」を起点に考えるのが現実的です。
正社員を先に採るかアルバイトを先に採るかは、次の判断軸で整理できます。
ワンオペを常態化させると、オーナーのコンディション悪化・突発休業リスク・顧客対応品質の低下が連鎖します。「最初は自分一人で回す」と決断する場合でも、開業後3か月以内にアルバイト1名を追加採用する計画を事業計画に織り込んでおくことが重要です。
採用活動の成否を大きく左右するのが、どの媒体に求人を出すかという「チャネル選択」です。個人経営の小さな飲食店が大手チェーンと同じ媒体・同じ予算感で戦うのは難しいため、ターゲット層と予算に合ったチャネルを絞り込む視点が必要です。
主要媒体の特徴を整理すると以下のようになります。
媒体 | 掲載方式 | 費用感 | 特徴・向き不向き |
|---|---|---|---|
Indeed | クリック課金(直接投稿による無料掲載あり) | 無料〜 | 幅広い層にリーチ。Indeedに直接投稿(またはATS連携)すれば個人店でも無料掲載から始められる |
タウンワーク等リクルート系媒体 | Indeed PLUS経由の配信(クリック課金型) | 中 | タウンワークはフリーペーパー本誌が2025年3月で休刊し、従来の掲載課金型の直接掲載も終了。現在はIndeed PLUSというクリック課金型プラットフォーム経由での配信に移行しています |
バイトル(ディップ) | 掲載課金型 | 中〜高 | 飲食・販売に強い。写真・動画訴求が充実 |
求人@飲食店ドットコム(シンクロ・フード) | 業種特化型 | 中 | 飲食業界経験者・転職希望者に直接リーチ可能 |
ハローワーク | 無料 | 無料 | コスト最小。応募数は少ないが採用意欲の高い求職者が多い |
SNS(Instagram・X等) | 自社運営 | ほぼ無料 | ファン採用に発展しやすい。個人店の強みが活きる |
スタッフ紹介(リファラル) | 紹介料(任意) | 低 | 定着率が高い傾向。既存スタッフがいる場合に有効 |
なお、Indeedは2025年7月に自社採用サイトの自動転載(クローリング)が終了しているため、無料掲載を活用する場合はIndeedへの直接投稿、または対応する採用管理システム(ATS)との連携が必要です。
個人店が大手と競合しにくいのは、業種特化型・地域密着型・SNS採用の3チャネルです。Indeedの無料掲載やハローワークを起点に、Instagram等のSNSで店の雰囲気を発信しながら応募者の興味を高める導線をつくると、採用コストを抑えつつ「この店で働きたい」という動機の強い応募者を集めやすくなります。
アルバイト1名の採用にかかる費用目安は以下のとおりです(あくまで参考値であり、地域・時期・媒体によって変動します)。
採用コストは開業費用の一部として事業計画に計上する必要があります。アルバイト3名採用を想定するなら、採用活動費として10〜20万円程度を予算取りするのが一つの目安です。
求人票の応募率は「記載の充実度」と「個店らしさの見えやすさ」で大きく変わります。最低限おさえるべき必須記載事項は次のとおりです。
個人店の強みは「オーナーとの距離の近さ」「裁量の大きさ」「アットホームな環境」にあります。これを求人票に「オーナー直接指導でスキルを磨けます」「希望があればメニュー開発にも関われます」といった具体的な文言で表現することで、大手チェーンにはない魅力を打ち出せます。また、店内写真・スタッフの声・Instagramアカウントへの誘導を加えると、「どんな職場か分からない不安」を払拭する効果があります。
「誰でもいいからとにかく採りたい」という焦りは、採用後のトラブルや早期離職につながります。ターゲット像を事前に設計し、選考軸を明確にしておくことが、採用の質を高める第一歩です。
採用ターゲットは以下の3軸で設定します。
「未経験可」とすると採用母集団は広がりますが、その分選考コストが増え、採用後の育成負担も上がります。必須条件(例:土日のどちらかに出勤可能)と歓迎条件(例:飲食業経験者)を峻別し、必須条件を絞り込むことで、募集の間口を広げながらも選考の軸を保てます。なお、募集・採用における年齢制限は、労働施策総合推進法第9条により、例外事由(長期勤続によるキャリア形成を目的とした若年者の募集等)に該当する場合を除いて法律で禁止されています。「年齢不問」は努力目標ではなく法律上の原則である点に留意してください。
50代・シニア層については、定着率の高さと経験値の豊富さがポジティブな側面として挙げられます。長年の接客・調理経験を持つ方は即戦力になるケースが多く、若いアルバイトが敬遠しがちな時間帯(平日ランチ・早朝)を安定的に埋めてもらえることもあります。一方で、スマートフォンや予約管理システムへの習熟に時間がかかる場合もあるため、ITツールの使い方は丁寧にサポートする前提で採用計画を立てることが重要です。
飲食業で活躍しやすい人物特性として、「人と話すことへの抵抗のなさ」「体を動かし続けることへの耐性」「チームの中で役割を果たせる協調性」「予期せぬ状況への対応力」が挙げられます。
面接で確認したい質問例は以下のとおりです。
NGサインとして注意したいのは、「遅刻・キャンセル等に関して理由の説明がない」「質問への回答が全て他責」「シフト条件が面接の場で二転三転する」といった行動です。一方、「調理経験がない」「接客に少し苦手意識がある」といった弱点は、育成設計でカバーできるケースが多いです。
試用期間(一般に1〜3か月)を設定し、その期間中に定期的な1on1フィードバックを行うことで、早期の「お互いのミスマッチ」を双方が確認できる仕組みをつくることが大切です。
採用は「内定を出して終わり」ではありません。入社後の定着まで見据えた設計が、開業後の安定運営を支えます。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査(令和6年調査)をもとにした目安として、飲食業の正社員(調理・ホール担当)の月収は20〜28万円程度、年収換算で250〜350万円程度が一般的な水準とされています(地域・業態・経験によって変動します)。都市部は相場が高く、地方は低い傾向があるため、競合店の求人票を参照して地域相場を確認することが不可欠です。
アルバイトの時給は、各都道府県の最低賃金を下回ってはいけません。2025年度の最低賃金は全国加重平均で1,121円となり、過去最大の引き上げ幅(66円)で全47都道府県が1,000円を超えました。最低賃金は毎年10月頃に改定されるため、求人票を作成する際は必ず厚生労働省のサイトで最新額を確認してください。競合と同等か、10〜30円程度上乗せすることで応募率が高まります。
給与水準だけで大手チェーンに勝つのは難しいため、まかない・交通費支給・昇給制度・シフト融通の良さといった付帯条件で採用競争力を補う視点が重要です。事業計画上は、FL比率(食材費+人件費)を売上の60%以内に収めることを前提に、人件費率は25〜30%程度が一つの目安です(原価率を25%程度に抑えられるカフェ等の業態では、人件費率がやや高めでも許容される場合があります)。開業当初は売上が安定しないため、最低賃金水準で採用可能な人数を厳密に試算して採用計画と連動させてください。
内定から入社当日までの標準的な流れは以下のとおりです。
内定通知(口頭・書面) ↓ **労働条件通知書の交付(法的義務。アルバイト・正社員ともに必須。2024年4月からは就業場所・業務の「変更の範囲」の明示も必要です) ↓ **雇用契約書の締結(双方署名) ↓ 社会保険・雇用保険の加入手続き(資格取得届を日本年金機構〔年金事務所・事務センター〕・ハローワークへ提出) ↓ 入社当日の持参書類確認・受取 ↓ 入社研修・OJT開始
アルバイトと正社員で手続きが異なる主な点を整理すると、正社員は健康保険・厚生年金への加入が必須であるのに対し、アルバイトは「正社員の所定労働時間・日数の4分の3未満」(週40時間の事業所なら週30時間未満)の場合、原則として加入義務が発生しないケースがあります。ただし短時間労働者でも、週20時間以上・月額賃金8.8万円以上・2か月超の雇用見込み・学生でない・従業員51人以上の特定適用事業所、といった条件を満たすと社会保険の適用対象になります。さらに2025年6月成立の改正年金法により、月8.8万円の賃金要件は2026年10月に撤廃される予定で、企業規模要件も段階的に撤廃されていくため、最新の適用基準を必ず確認してください。
入社当日にスタッフに持参してもらう書類としては、マイナンバー確認書類(マイナンバーカード、通知カード〔記載事項が現在の氏名・住所と一致している場合のみ有効〕+本人確認書類、またはマイナンバー記載の住民票)・銀行口座情報・基礎年金番号が確認できる書類(年金手帳または基礎年金番号通知書)・前職の源泉徴収票(正社員の場合) などが一般的です。なお通知カードは2020年5月に新規発行が廃止されており、それ以降に送付されている「個人番号通知書」は番号確認書類として使えない点に注意してください。年金手帳も2022年4月に新規発行が廃止され、以降は基礎年金番号通知書が発行されています(既存の年金手帳は引き続き有効です)。
飲食業の離職率が高い背景には、長時間労働・体力的なきつさ・育成の仕組みの乏しさ・コミュニケーション不足による孤立感という構造的な問題があります。これらをオーナー自身がどこまで潰せるかが、定着率を左右します。
入社前〜試用期間にできる定着施策としては次の3点が基本になります。
「きつい」を前提とした働き方設計も重要です。適正なシフト管理(過度なワンオペシフトを組まない)・休憩時間の確保・残業の上限設定(時間外労働は原則月45時間・年360時間が上限)は、労働基準法上の義務であるとともに、スタッフの健康と定着を守るための経営判断でもあります。求人票の段階で「無理のない働き方を大切にしています」「残業は月〇時間以内」と明記することが、採用ブランディングの一貫性にもつながります。
業態・予算・採用ターゲット層によって最適解は異なりますが、まずはIndeedへの直接投稿による無料掲載とハローワークを組み合わせてコストを抑えつつ始めるのが基本です。応募が集まらない場合は、飲食業特化型(求人@飲食店ドットコム等)や有料媒体を追加します。なお、タウンワーク等のリクルート系媒体は現在Indeed PLUS(クリック課金型)経由の掲載に移行しています。SNSでの店の発信と連動させると、個人店らしさを活かした採用につながります。
規模の小ささ自体は致命的ではありません。「オーナー直指導でスキルが身につく」「シフト融通が利く」「アットホームな環境」など、個人店ならではの強みを求人票で具体的に表現することで、それを魅力と感じる応募者を引き寄せられます。店内の雰囲気が伝わる写真やSNSアカウントへの誘導も有効です。
アルバイト1名採用あたりの費用目安は、有料掲載課金型媒体で2〜10万円程度、飲食特化の成果報酬型サービスで1〜5万円程度です(正社員の人材紹介は理論年収の10〜35%程度が相場となるため別枠で考えてください)。Indeed無料掲載・ハローワーク・SNS経由なら掲載費はほぼゼロです。開業時にアルバイトを複数名採用する場合、採用活動全体で10〜20万円程度を事業計画に計上しておくと安心です。
早期離職の多くは、入社後の「思っていた仕事と違う」「何をすればいいか分からない」という不安から生じます。オンボーディングの整備(初週の業務計画)・定期的な1on1・具体的なフィードバックの3点を試用期間中から実践することが効果的です。求人票の段階から職場の実態を正直に伝えておくことも、ミスマッチ防止につながります。
オーナー自身がコア業務(調理・マネジメント)を担える場合はアルバイト優先が合理的です。一方、調理やホール管理をオーナー一人では賄えない場合は正社員採用を先行させる必要があります。開業コストを抑えたい段階では「アルバイトを先行採用し、事業が安定したら正社員を採用する」ロードマップを描くオーナーが多いです。
リスクは「育成コストの増大」と「早期離職の確率がやや高い」点です。対策として、OJTのスケジュールを事前に設計し、最初の2週間は先輩(またはオーナー)が必ずそばで指導できる体制を整えることが重要です。「未経験でも育てられる仕組み」があれば採用母集団を広げられるため、マニュアル整備が先決です。
アルバイト・正社員どちらも労働条件通知書の交付は法的義務です(労働基準法第15条。2024年4月からは就業場所・業務の「変更の範囲」の明示も必要です)。それに加え、雇用契約書(双方署名)・マイナンバーの収集書類・社会保険・雇用保険の加入届類が必要です。正社員の場合は健康保険・厚生年金の資格取得届を資格取得日から5日以内に日本年金機構(年金事務所・事務センター)へ提出する義務があります。
「複数タスクを同時にこなす状況への抵抗感」「チーム内での役割意識」「シフト条件の一致度」「長期で働く意向」の4点を面接で必ず確認します。加えて、遅刻・無断キャンセルなどの面接中の行動も重要なチェックポイントです。経験や技術は後から育成で補えますが、基本的な約束を守る姿勢は入社後に変えるのが難しいと心得てください。
メリットは、社会経験から来る接客の安定感・平日ランチなど若い層が敬遠する時間帯への対応・定着率の高さです。注意点は、POSや予約管理システム等のITツール習熟に時間を要する可能性がある点で、導入時の丁寧なサポートを前提に採用計画を立てることが重要です。なお、募集・採用における年齢制限は労働施策総合推進法第9条により、例外事由に該当する場合を除き禁止されています。
応募率を上げる最大のポイントは「働く姿が具体的にイメージできるか」です。給与・シフト・休日に加え、「どんな人が働いているか」「どんなスキルが身につくか」を具体的に書きましょう。写真は店内・スタッフの様子を必ず掲載し、SNSへの誘導も加えると不安の払拭につながります。条件を曖昧に書くより「週2日〜OK・1日4時間〜OK」と明確に書く方が、適合する応募者が集まります。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査(令和6年調査)を参考にすると、飲食業正社員の平均年収は250〜350万円程度が一つの目安とされています(地域・業態・経験により幅があります)。都市部は相場が高く、地方では低い傾向があります。給与単体で競合に勝てない場合は、まかない・交通費・昇給制度・シフト柔軟性といった付帯条件を充実させることで採用競争力を高める工夫が有効です。
内定通知の後、まず労働条件通知書を交付し、雇用契約書を締結します。正社員の場合は資格取得日から5日以内に社会保険の資格取得届を日本年金機構へ提出します。入社当日までにマイナンバー・口座情報等の書類を受け取り、初日のオンボーディングスケジュールを準備します。内定から入社まで最低でも1〜2週間の余裕を持つことで、双方が落ち着いて準備できます。
本記事の金額・制度情報は執筆時点の目安です。実際の費用は業態・規模・地域・時期により異なり、補助金・融資・許認可・税の最新かつ正確な情報・要件は各公式(日本政策金融公庫・中小企業庁・各自治体・税務署等)で必ずご確認ください。
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